Project/Area Number |
21K00270
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
今井 久代 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90338955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木谷 眞理子 成蹊大学, 文学部, 教授 (00439506)
吉野 瑞恵 成蹊大学, 公私立大学の部局等, 客員教授 (00224121)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2025: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | 狭衣物語 / 異本系 / 多様な本文 / 狭衣物語の異文 / 異本 / 改変 |
Outline of Research at the Start |
『狭衣物語』全四巻の現存写本のうち、改変後の本文と推定され等閑視されている異本系本文について、[改変]の内容や特徴、質的達成を、他系統の本文と比較し確認する。 特に、緊密な物語展開が確認できる巻二前半までと比較して、主題が拡散し、作品自体が迷走している感のある巻二後半以降では、いかなる[改変]があり得たのか、その質を評価することで、作者と享受者が一体になった集団における[改変]の達成と意義を解明し、12世紀に盛んであったと推定される、[改変]を含む総合的な運動体としての、物語文学の様相を明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き『狭衣物語』巻二の残り3分の1の精読を行い、続いて『狭衣物語』巻三の精読に入った。 『狭衣物語』巻二の後半は、女二の宮が産んだ狭衣とのあいだの子を、宮の母皇太后宮の産んだ帝の若宮と偽るなか、皇太后宮が亡くなり、その衝撃と恨みによって女二の宮自身は狭衣との縁談を拒み、出家してしまうという形で、いわゆる女二の宮物語が一応の終結をみたあとの物語となる。狭衣の後悔の日々が語られるなか、女二の宮の父帝が甥である東宮に譲位することとなり、狭衣の思い人源氏の宮も、紆余曲折の末、斎院に選ばれてしまう。その結果、狭衣の恋は、入内ではなく、斎院卜定によって終わることとなり、源氏の宮物語も一応の終結を見る。そして巻一で語られた飛鳥井女君のその後が、改めて報告される。 つまり、巻一から巻二まで語られてきた源氏宮・女二の宮・飛鳥井女君の三者が絡み合う恋物語が終わったあと、次の物語に進むまでの間奏曲が進展するのが巻二の残り3分の1になるが、巻二の異本系最善本である高野本はこのあたりで終わる零本であり、次善の本である九条家旧蔵本をもとに、深川本・流布本と比べながら精読を行った。その結果異本と呼ぶべき異質な本文であることは確認できたが、巻一及び巻二の3分の2までと違い、異質な本文を模索する改変意図が今ひとつ掴めない本文であることが、改めて明確になった。 この傾向は、巻三においても再確認できた。巻三では、深川本・流布本の差異が少なくなり、九条家旧蔵本もこの2本と極めて近い。巻二までは、おおむね深川本・流布本は近いものの、深川本・流布本と区別すべき、表現に留まらぬ内容の違いが見受けられ、異本系はさらに異質であった。ところが巻三では、異本系のみ異質で他3本の差異がほとんどなく、異本の改変意図も掴めない本文である。『狭衣物語』の多様な本文を生み出すエネルギーが失われてゆく傾向が顕著に見て取れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
異本系の本文は、省略の多さや一文のなかでの主語の転換、「を」「に」を接続助詞として使うなど、王朝文学らしい読みにくさをもつうえに、深川本・流布本との距離を測りながら精読してゆくため、精読自体に思いのほか時間がかかる。加えて、異本系の本文の微妙な変化を見極めるために、巻二の精読に立ち戻って作業を行ってきたため、なかなか巻三・巻四の本文研究にまで至っていない。 しかしながら、巻二までの深川本・流布本、そして異本系の本文相互の特徴を、精読によって掴んできたことで、『狭衣物語』の本文の多様性について、ある種の見極めができてきた。これは今後を進める際の、重要な指針であり、成果である。 『狭衣物語』創作の最初のもくろみであったと思われる、源氏宮・女二の宮・飛鳥井女君の三者が緊密に絡んだ恋物語における本文の異同、改変の質と、それらの物語が終わったあとの、巻二の残り3分の1及び巻三における本文の異同、改変の質とには、明らかに明確な差がある。なかでも巻三については、伝慈鎮本が発見される以前は、九条家旧蔵本が異本系とされてきたわけであるが、巻二までの傾向を見てきた目からは、むしろ深川本(第一類第一種)・流布本(第一類第二種)・異本(第二類)と系統を分ける必要性を疑うくらいに、この三者の本文の大まかな傾向は、同質なものに向かう。これに対して伝慈鎮本の巻三は、なるほど明らかに異質な本文であり、これを異本(第二類)と称することはできそうであるが、異質な本文を展開するにあたっての、一貫した改変意図が見受けにくいように思う。巻一及び巻二の3分の2までに比べると、解釈に困る本文の乱れはあるものの、解釈と評価に時間をかけねばならない、本文の豊かな改変は、あまり存在しないように思われる。 これらの傾向を踏まえると、巻三の精読作業は、巻二までのそれに比べると、早く進むのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続いて慈鎮本巻三の精読を行い、深川本・流布本・九条家旧蔵本との距離を測るとともに、異本系としての改変の質の評価を行う予定である。残念ながら慈鎮本の巻三は、慈鎮本の巻一や、高野本の巻二のような、豊かな解釈の広がりを誘うような興味深い本文ではなく、単なる書写ミスを多く含む、独りよがりな省略の多い本文のように見受けられる。巻三になると、質の低い、読み手を魅了する意図が見受けられない改変本文となり、その結果、流布本とも異本系とも区別したくなるさらなる改変(すなわち、深川本)が誘発されたり、曲がりなりにも異本系の本文がある程度写し伝えられる(巻一には伝慈鎮本と伝為家本があり、巻二にも高野本を中心に九条家旧蔵本など異本系本文をかなり残す写本がある)こともなく、わかりにくい本文の乱れを抱えた伝慈鎮本だけが残されるのではないか。そのような見通しを検証するべく、慈鎮本の巻三の精読を行い、『狭衣物語』の物語内容の評価と重ねながら、異本系の本文の質と、改変という行為の意味を改めて考えてゆきたい。 また、今年度は研究代表者が研究休暇で充分な時間を取れることを利用して、巻四為秀本の翻刻を行う。巻四は中田剛直氏による『校本 狭衣物語』はまとめられておらず、深川本も巻三までで、巻四がない。『新編日本古典文学全集』では、平出本を底本としているが、巻三の深川本・流布本・九条家旧蔵本の近さに鑑みて、そもそも平出本と流布本において、単なる表現の違いにとどまらない、物語内容の違いにまで踏み込んだ異同が存在するのかが興味深い。また、片岡利博『異本の愉悦』が示唆する通り、為秀本が異本と呼ぶべき質の違う本文になっているのかについても、改めて確認する必要がある。 巻四については、精読まで踏み込む時間はないと思われるが、巻二の残り3分の1以降窺えるような、本文改変のエネルギーの低下が見て取れるのか、見通しを持ちたい。
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