近世期・軍記作品の流布と幕府の文化施策との連関をめぐる通史的研究
Project/Area Number |
21K00302
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久保 勇 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (10323437)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
|
Budget Amount *help |
¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2024: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
|
Keywords | 軍記 / 尾張藩 / 徳川義直 / 源敬公 / 蓬左文庫 / 松平君山 / 将門記 / 平家正節 / 書誌学 / 版本 / 陸奥話記 / 後三年記 / 平家物語 / 出版規制 |
Outline of Research at the Start |
本研究は,初期軍記作品版本(『将門記』『陸奥話記』『後三年記』)および『平家物語』読み本系写本(延慶本・源平闘諍録)等を対象とし,近世期におけるそれらの成立・伝来の実態を探究しながら,幕府の修史事業等の「文化振興事業」と出版規制等の「文化統制」といった表裏をなす施策との影響関係について,通史的に研究するものである。軍記作品の「幕府による読まされ方」の文化史(文学史)という問題を提起する研究とも換言できる。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期軍記作品版本および『平家物語』読み本系写本等を対象とし、近世における伝来と流布の問題について、幕府の修史事業や諸藩の文化事業等との影響関係を通史的に研究するものである。本年度までの調査研究に基づき、具体化した問題は、尾張藩初代・徳川義直(源敬公)の営みとそれを継承した人々の文化活動である。以下、具体化した問題と一部成果について報告する。 ①徳川義直自撰書『軍証志』『成功記』は『今昔物語集』『陸奥話記』『後三年記』『平家物語』『太平記』等に依った梗概により一部構成され、軍記の受容に関する重要な資料であり、検証の余地が多く残されている。 ②尾張藩において、義直に倣い歴代の藩主等によって軍記が蒐集されたのは「源敬公御行状下巻」「圓覚院様御伝十五ヶ条」等が伝える義直の遺志を継承する営みとして解される。『軍書合鑑』巻末「王命に依りて催さるる事」の一節は、尾張藩が常に「官軍」であるべきと説くが、「不測の変」の前例として「保元・平治・承久・元弘のごとき事」が挙がり、武士のアイデンティティ形成に軍記が影響している可能性が考えられる。 ③寛保三年(1743)から長く書物奉行を務め、藩士系譜や地誌をまとめた松平君山(1697~1783)は、真福寺の『将門記』の写本を作成し、尾崎家本「平家正節」の序を寄せ、軍記への造詣は随筆「春のながめ」から知られる人物である。また、門弟・横井時敏の「君山先生奇談」には「武家の廿八代集」なる軍記作品群を古記録として総称する説が述べられていることも注目される。 ④寛政元年(1789)『藩翰譜続編』編纂の為、幕府から系譜提出を求められた尾張藩では「御系譜御記録調」を開始するが、それに伴い「源敬公御自撰之書物校合」も行われた。当該準備作業は天明年間(1781~89)から開始し、古典籍の調査もこれを契機に行われた。(『愛知県史通史編4近世1』2019)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度の新型コロナウイルス感染症にかかる研究停滞による遅れが取り戻せなかった部分があること、また調査対象が具体化し尾張藩に集中することとなったため、当初の研究計画全体から見れば遅れが生じる状況となった。具体的に遅れている研究活動は以下の通りである。 【尾張関係資料の調査】名古屋市鶴舞中央図書館、名古屋市蓬左文庫、刈谷市中央図書館(村上文庫)について、複数回文献調査を実施してきたが、時間的制約があり、調査は不十分な状況である。 【研究成果の公表】尾張藩における『将門記』板行をめぐる問題に関わって、その前段階となる同藩における写本(松平君山写本、河村秀穎写本等)の整理等をおこない、その成果報告を計画していたが、刈谷図書館蔵本(秦滄浪旧蔵本、村上忠順写本)の問題が整理できない状態であり、成果報告の公表に至っていない。 【尾張藩と幕府の関係】尾張藩における「軍記」の位置付けを明らかにすることによって、近世期の「軍記」の寡占と流布の実態を考究しようという課題設定にあっては、尾張藩の人々や文物が「幕府」にどのような影響を与えていたか、先行研究の検証や資料的発見が必須となるが、幕府周辺に関する調査活動が不十分となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度前半期は尾張藩における「軍記」をめぐる調査研究に集中し、後半期は尾張藩と幕府(江戸)や水戸藩等諸藩の動向を相対化する方針としたい。また、次年度は6ヶ月のサバティカル研修を取得したので、それによるエフォート確保によって前年度までの遅れを挽回することを企図している。以下、主要な研究活動計画について示す。 【研究成果の公表】現時点で明らかになった義直と「軍記」に関わる諸問題について俯瞰した研究発表をおこなう(軍記・語り物研究会例会にて「尾張藩と軍記物語 ―徳川義直(源敬公)を継承する諸動向をめぐって―」)。研究発表時に於ける質疑等を活かし、年度内に研究論文として成稿したい。 【資料整理と検証】蓬左文庫等で蒐集した資料の一部翻刻および検討。義直自撰『成功記』『軍證志』、松平君山『春のながめ』、尾張御文庫の蔵書目録等が対象となる。家康の一代記である『三河記』『成功記』『武徳大成記』三書の関係については先行研究が少ないが、『武徳大成記』の文化史的影響が少なくないことから、尾張藩を端緒とする〈歴史〉について見通せると想定している。 【幕府および諸藩における資料の収集】江戸にあっては、紅葉山文庫や林家周辺の書物にかかる認識を近藤重蔵『右文故事』等によって確認する作業をおこなう。また、周辺諸藩で注目されるのは、軍記を架蔵する島原藩(島原松平文庫)や大聖寺藩(聖藩文庫)である。島原藩の松平忠房は三河の地で成長しており、大聖寺藩に軍記をもたらした儒臣・河野春察の義直評(『武家諫忍記』)などが注目される。
|
Report
(2 results)
Research Products
(1 results)