補間法によるランダムスピン系の自己平均性と時間発展に関する研究
Project/Area Number |
21K03393
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 13010:Mathematical physics and fundamental theory of condensed matter physics-related
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
糸井 千岳 日本大学, 理工学部, 特任教授 (70203122)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
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Keywords | ランダムスピン系 / スピングラス / スピン配位の重なりの秩序変数 / レプリカ対称性の破れ / Isingスピン系 / 量子スピン系 / SK 模型 / EA 模型 / 自発的対称性の破れ / 補間法 / 自由エネルギー / 秩序変数 / 平均場模型 / ランダム量子スピン系 / スピンの重なり / 自己平均性 / 平方根補間法 / Parisi公式 / 臨界次元 / 熱力学第2法則 / 量子アニーリング |
Outline of Research at the Start |
磁性体の状態として常磁性,強磁性,反強磁性がよく知られているが,それら以外に強磁性と反強磁性がランダムに入り乱れているスピングラスという磁性の状態も存在する.このようなスピングラスの磁性状態をもつランダムスピン模型の低温での性質を理解することは困難な問題である.特に,厳密解が存在し,よく理解されている平均場模型において低温で起こっているレプリカ対称性の破れが,より現実的な短距離相互作用を持つスピングラス模型においても起こるのかどうかは,非常に困難な問題として議論されて来ている.我々は,最近開発された数学手法「平方根補間法」によってこの困難な問題の解決に挑んでいる.
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Outline of Annual Research Achievements |
スピングラスの模型はSherrington-Kirkpatrick(SK)模型のように長距離相互作用を持つ模型とEdwards-Anderson(EA)模型のように短距離相互作用を持つ模型の2通りに分類される。これらの模型はスピングラスの代表的な模型としてよく調べられてきている。1979年にParisiはSK模型の自由エネルギー密度に対するParisi公式を発表し、2006年にTalagrandはParisi公式が全ての温度領域において厳密解であることを証明した。この厳密解がよく調べられたことにより、SK模型の性質は詳細に理解されている。Talagrandの用いた数学的手法である平方根補間法は短距離相互作用模型の解析にも有用なので、これを用いた解析は我々のものも含め多く行われている。しかし、EA模型にはParisi公式のような厳密解がないので、その低温での性質について不明な点が多い。西森のゲージ理論は、EA模型の性質を定量的に明らかにする数少ない解析方法である。例えばEA模型の相図の部分空間である西森線の上ではエネルギー期待値の厳密解が得られ、さまざまな物理量の間に有用な関係が成り立つ。これらの関係を用いて、EA模型の常磁性相及び強磁性相に位置する西森線上での性質はほぼ明らかになっている。しかし、西森線から外れたスピングラス相内のスピンの重なり性質は残念ながらほとんど得られていないため、未だ明らかになってはおらず、現在の課題として残されてきている。我々は、平方根補間法やゲージ理論の新たな活用法を見出し、さらに新たに不等式を開発することによって、古典及び量子ランダムスピン系を研究し、今年度は5編の論文を発表した。ゲージ理論を混合p体相互作用や量子系に拡張し、西森線上でスピンの重なりの自己平均性、スピングラス相内の自発磁化やスピングラス転移の磁化率の有限性などを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度発表した5編の論文は全て数学的に厳密な定理からなる。以下ではこれらを簡単に解説する。 論文[1]では、スピングラスの分野で有用な理論として知られているゲージ理論をp体相互作用のある場合に拡張し、スピングラス相を含む領域で自発磁化が消えることを示した。また、近年スピングラス分野で有用とされているGhirlanda-Guerra等式とゲージ理論を用いてスピンの重なりが西森線上で自己平均的であることを証明した。 論文[2]では、ゲージ理論を量子スピン系である横磁場Edwards-Anderson(EA)模型に拡張し、磁化率がスピングラス転移で発散しないことを証明した。 論文[3]では、一般的な量子スピン系に対して知られているBogoliubov不等式やHarris不等式を拡張し、新しい不等式の系列をいくつか導いた。その中の一つの不等式と補間法を用いて常磁性相にある横磁場Sherrington-Kirkpatrick模型の自由エネルギー密度の変分関数を導いた。 論文[4]では、ゲージ理論をXYZ量子スピン系に拡張し、強磁性自発磁化がない結合定数空間の領域を特定した。この領域は低温でスピングラスとなる可能性がある。また、スピングラス転移で磁化率が発散しないことを示した。 論文[5]では、Griffithsの定理を、EA模型など短距離相互作用を持つスピングラス模型に拡張した。強磁性Ising模型に対するGrifithsの定理は、対称性を持つ平衡状態において強磁性長距離秩序が存在するとき、自発的対称性の破れが起こると主張する定理である。この場合、対称性を破る磁場について自由エネルギー密度の微分不可能性が導かれる。我々が拡張した定理によれば、レプリカ対称な平衡状態においてスピンの重なりの自己平均性が破れるとき、レプリカ対称性を破る摂動の結合定数に関する自由エネルギー密度の微分不可能性を導いた。
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Strategy for Future Research Activity |
長距離相互作用を持つSherrington-Kirkpatrick(SK)模型には厳密解があるため、その統計力学的な性質がよく分かっている。Edwards-Anderson(EA)模型のように短距離相互作用を持つ模型が、SK模型と同じように振る舞うかどうかは重要な問題である。磁場のある強磁性Ising模型では相互作用が長距離か短距離かに関わらず相転移は起こらないが、SK模型では磁場がある場合にも、Almeida-Thouless(AT)線を境界としてレプリカ対称性の破れが起こることが知られている。一方、EA模型のような短距離相互作用を持つ模型において、SK模型のようなレプリカ対称性の破れが起こるかどうかという問題は、スピングラス分野の難問として残っている。近年、この分野は少しずつではあるが発展し、EA模型の基底状態や熱平衡状態の性質などが解明されつつあるため、難問解決の糸口が見えてきている。例えば、磁場のあるEA模型でスピンの重なりは自己平均的であり、レプリカ対称性の破れの非存在証明に挑戦することは意義があると思われる。 一方、量子スピングラス系では様々な発展が見られる。最近、横磁場SK模型や横磁場p体スピングラス模型に対する量子Parisi公式が導かれた。この公式の導出には、古典連続スピングラスに対するParisi公式の導出に用いられた修正模型による方法、平方根補間法及び経路積分法が用いられた。この量子Parisi公式を調べることにより、長距離相互作用を持つ量子スピングラスにおけるレプリカ対称性の破れについて理解が深まると思われる。例えば、レプリカ対称性の破れが起こる相の境界を与えるAT線を量子Parisi公式から特定することなどの重要課題がある。このような発展を押し進めることは、組合せ最適化の解法として知られる量子アニーリングなど、量子情報分野への貢献も期待できる。
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Report
(3 results)
Research Products
(14 results)