Project/Area Number |
21K12915
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
釋 七月子 名古屋大学, 人文学研究科, 博士研究員 (60835817)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
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Keywords | 自分史 / 官営移民 吉野村回顧録 / 新しき村 / 和合と共産制 / 教育 / 安住楽土 / 官営移民吉野村回想録 / 清水半平 / 父(備後次雄)自叙伝(台湾の思いで) / 日本自分史センター蔵書 / 戦争体験世代 / 自分史産業 / 北九州市自分史文学賞 / 自分史文学 / 一般読者 |
Outline of Research at the Start |
「自分史」は、毎年数多く出版されているが、作品としての自分史の分析はほとんど行われておらず、自分史を体系化した研究はない。自分史は庶民の文章運動から生まれ、初期には「戦争を語り継ぐ」という役割から独自の発展を遂げた。このような特殊性から、申請者は、自分史は単なる自伝の大衆化ではなく、日本独自の庶民の文化であるという考えに立ち、これまでに自分史の出版数及び著者属性分析、自分史関連書籍の分析を通じ、その動向を明らかにしてきた。本研究では、1)自分史体系化のための基礎研究及び2)戦争体験世代の自分史の分析を試みる。本研究により自分史の意義、変遷を明らかにし、自分史学として体系化することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
官営移民村・吉野村の村長等を務めた清水半平は昭和初期に武者小路実篤著『新しき村』を読み感動したと述べている。半平の自分史『官営移民 吉野村回顧録』から半平の吉野村経営理念を読み取り、どの部分に「新しき村」との関連があるのかを読み解くことを試みた。 半平の吉野村運営は主に「和合と共産制」「教育」「安住楽土」の3つである。まず「和合と共産制」であるが、半平は村から貧乏を追放する目的で産業組合を発足させた。ここで重要なのは、半平は「共産制でない限り、真の和合はありえない」と述べていることである。村民の一致団結と共産制を理想とする考えは、實篤の「新しき村」の目標である「皆が協力して共産的に生活」することと相通ずるものがある。 半平は経済的理由により中学を退校せざるを得なかった経歴もあり、村の教育には関心を持っていた。農閑期のない台湾においては就学前の子どもたちの世話は大きな問題であり、その対策として半平は産業組合運営の幼稚園を設置した。また農林学校も設置している。實篤も教育への関心は高く、教育の重要性に関する認識は半平も實篤も同じである。しかし半平が移民村として必要な教育を実践していることは注目に値する。 当時の吉野村は若者が村を離れたがる傾向にあった。そのひきとめ策として「一歩進んだ文化村として、若者に誇りを持たせる」政策を実施した。具体的には夜の映画鑑賞、青年団を中心にした盆踊りなどである。實篤は共産生活の範囲に「一定の娯楽」も含めているが、半平は村に合った方法でそれを実践している。また風土病や自然災害に悩まされたにも関わらず治安が良かったことは、村民の「和合」が保たれた大きな要因になっている。 このように半平の吉野村運営には、「新しき村」の考え方と共通するものを見出すことができる。このことは外地・台湾の一官営移民村にまで「新しき村」の理念が伝播していることを裏付けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究2年目と3年目に突然の母の介護と入退院、その後の他界により、研究の進捗が遅れてしまった。さらに母の介護と時を同じくして、COVIT-19の思いもよらぬ大きな影響で、海外渡航が事実上不可能になった。そのため研究を1年延長させて頂いた。 旧吉野村(花蓮)周辺調査を目的とした渡台は2年遅れ、またロシアでのシベリア抑留調査等もCOVIT-19のみならず、その後のウクライナ戦争の勃発で、事実上実施が困難になった。そのためシベリア等抑留に関する自分史研究も、一から計画を立て直すことになった。それらが理由で、現在の進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
自分史の原点には「戦争の記憶の風化に対する危惧」があった。本研究では戦争体験世代の自分史に着目し、今までの研究を継続・発展させることにより、戦争体験世代の自分史の特徴や当時の庶民の生活、考え方、心情などを明らかにすることを目指している。 若手研究の計画当初は、シベリア抑留の自分史の作品分析を行う予定で、モスクワのグラグ歴史博物館などとコンタクトを取り、実地調査とロシアのシベリア抑留専門家の指導を受ける予定であった。しかし、COVID-19のみならず、ロシアによるウクライナ侵攻のために渡航は危険を伴うことになり、事実上不可能な状況にある。そのため当初の研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。しかしソ連抑留体験者の自分史著者と実際に何度もお目にかかってお話を伺ったり、手紙や資料を頂戴したりすることにより、「語られない」「語ることができない」部分こそが大切であることに気づくことができた。ソ連抑留に関する研究計画を修正し、令和6年度は次の研究計画にしたがって研究を進めていきたいと考える。 「研究計画1」として、吉野村の産業組合発足と運営に関する「新しき村」の影響の分析を試みる。方法としては『官営移民 吉野村回顧録』と『武者小路實篤全集』との比較研究を行う。必要ならば「新しき村」関連著書も比較研究の対象に入れる予定である。 「研究計画2」として、自分史に語られないことの重要性や語られない理由に関して、シベリア抑留体験者・長澤春男氏と、ソ連(カザフスタン)抑留者であり台湾日本語世代の呉正男氏の自分史や証言から検証を試みる。 令和6年度が科学研究費助成事業の最終年度になるので、研究成果を論文にまとめる予定である。
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