Project/Area Number |
21K18349
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 1:Philosophy, art, and related fields
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
井上 嘉孝 京都文教大学, 臨床心理学部, 准教授 (20547377)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 異界と怪物の表象 / 心の歴史性 / 現代意識 / 社会化と非社会化 / 心理学的境界 / こころの歴史性 |
Outline of Research at the Start |
本研究は,異界と怪物を巡る表象の歴史的・現代的変化,およびそこに反映される青年心性の分析(イメージマップ作成,フィールド・面接調査,心理臨床事例検討)を基盤として,こころの歴史性とコスモロジカルな境界/心理学的な境界(の消滅)という観点から現代意識のもつ特徴を本質的に捉えなおし,現代日本の青年たちが直面する社会化の多様性と困難さ,あるいは非社会化という心理‐社会的課題を理論的・実践的に見直すものである。そしてこの試みは,世界的なフラット化/ポストヒューマニズムの潮流を先取りする日本文化の根幹に,心理学的かつ学際的な視点から切り込み,その可能性と未来像を探索する取り組みである。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、こころの歴史性とコスモロジカルな境界、および心理学的な境界という観点から異界と怪物を巡る表象の歴史的変化に分析を加えることによって、現代意識の持つ特徴を本質的に捉え直し、現代日本の青年たちが抱える心理‐社会的課題を理論的・深層心理学的かつ実践的・心理臨床学的に見直そうとするものである。思想的研究は心理臨床実践や個別具体的な体験の世界と遊離しがちであり、心理臨床的・実践的研究は私たちのこころをとりまく集合的な文脈である文化・精神史的な背景を見過ごしやすい。本研究の挑戦的な意義は、集合的文脈と個別性の次元を架橋する試みにある。 研究初年度である2021年度はコロナ禍のなか、大学院生を中心とする研究協力者を募って研究体制の基盤作りを行い、資料収集・整理、文献サーベイを進めた。 2022年度は、いまだ収束の兆しを見せないコロナ禍の影響で、研究グループで密度の濃い作業を実施することが困難であった。ただ、前近代的な<異界表象>についてのフィールドワークを昨年度よりも拡大し、その現代的意義に関する深層心理学的な検討を加えた。 2023年度は、コロナ禍の終息に伴い、大学院生グループとともに精力的に研究活動を進めることができた。合計23回の研究会と4回のフィールドワークを実施し、前近代と現代における異界イメージを深層心理学的に比較検討するディスカッションを重ねた。また、日本を代表する妖怪マンガ『ゲゲゲの鬼太郎』の最初期のイメージを深層心理学的に分析し、その成果を論文としてまとめた。ただ、フィールドワークで得られたインタビューデータをまとめる作業、および現代の<異界表象>を分析・マッピングするための仮説的「座標軸」づくりの作業は途上である。さらに、当初予定していた現代青年の社会化と心理的境界に関する調査研究や臨床事例研究も課題として残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも記した通り、コロナ禍の終息に伴い、2023年度は合計23回の研究会と4回のフィールドワークを実施し、大学院生グループとともに精力的な研究活動とディスカッションを実施することができた。前近代的な<異界表象>のあり方を捉え、深層心理学的な検討を加えるため、比叡山延暦寺や伏見稲荷大社などのフィールドを訪れるとともに、現代意識と青年の心理を反映する<異界表象>の溢れる場として、コミックマーケット102(東京ビッグサイト)をフィールドワークし、参加者25名にインタビュー調査を実施した。現在、そのデータを整理・分析している。 並行して<異界表象>や精神史・心性史に関する文献サーベイやその意義についての検討も進めた。それらの成果の一端は研究論文「ゲゲゲの鬼太郎の深層心理学1」(京都文教大学臨床心理学部研究紀要,第16集,pp3‐18.)としてまとめた。 さらに、臨床実践における自験例をもとに、本研究の知見が実際の心理臨床事例を理解する上でもつ有効性についても検討を加えているところである。その一部は、『図解でわかる臨床心理学』(中央法規出版)に活かされた。 研究初年度からコロナ禍による活動制限および研究代表者のエフォート配分の大幅変更を余儀なくされたが、フィールドワークとディスカッションを中心に、研究活動を地道に蓄積してきた。全体的な研究計画にはやや遅れが見られるものの、今後につながる知見や視点を蓄積できたと考える。そこで得られた知見・視点を参照軸にしつつ、現代に至る<異界表象>の歴史的変化に反映された「この世」と「あの世」を巡るコスモロジカルな境界、およびその内面化されたものとしての心理学的な境界の現代的な特徴を明らかにしたうえで、現代の<異界表象>をマッピングし分析するための「座標軸」の構築、青年の社会化と心理的境界に関する調査研究や臨床事例研究を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
2024(令和6)年度は、本研究の最終年度となる。研究期間全体を通じてコロナ禍により大幅な活動制限が余儀なくされ、また研究代表者がエフォート配分を大幅に変更せざるをえない状況になったが、フィールドワークやディスカッションを中心に研究活動を地道に蓄積してきた。また、2021年度から進めてきた精神史・心性史に関する知見・視点を参照軸にしつつ、<異界表象>の歴史的変化に反映された「この世」と「あの世」を巡るコスモロジカルな境界、あるいはその内面化されたものとしての心理学的な境界の現代的な特徴を明らかにしていくことが課題である。 <異界表象>のあり方を捉える資料収集・整理を引き続き推し進めながら、またフィールドワークによって培った前近代的な<異界表象>に関する知見を分析・参照しつつ、とりわけ現代的な<異界表象>のイメージマップを描き出していくための、また従来的・前近代的な<異界表象>との差異や変化を捉えるための指標となるような「座標軸」を仮説的に議論・検討していく。 これらの研究活動から得られた現代意識の問題(心理学的境界と社会化の問題)に関する知見・視点を、現代青年の社会化と心理的境界に関する調査研究および実際の心理臨床事例研究につなげていく。 また、本研究において蓄積してきた前近代から現代に渡る<異界表象>の変化に関する知見・その変化を読み解く視点を示し、改めて現代における<異界表象>のもつ意味を深層心理学的かつ学際的に問い直すため、シンポジウムを開催する予定である。
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