旧住井すゑ・犬田卯邸宅資料の調査研究に基づく〈文学と社会〉の包括的考察
Project/Area Number |
22K00348
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
安達原 達晴 東海大学, 文学部, 講師 (70846021)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 住井すゑ / 資料 / 草稿 / 『夜あけ朝あけ』 / シンポジウム / 犬田卯 / 『橋のない川』 / 文学と社会 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、作家・住井すゑと犬田卯夫妻に関連する資料群の調査研究を行う。資料の意味や価値を明らかにし、文学史的な位置づけが不十分である両者の活動を見直しながら、文学の在り方や文学と社会との関わりについて、包括的な視座から考察を行う。 過去に行った調査研究を引き継ぎ、茨城県牛久市の協力のもと、住井の代表作『橋のない川』の分析をはじめ、住井宛読者書簡を用いた作品受容と戦後の人権意識や民主主義思想との関連、文学ジャンルと社会状況の接点、文学における地域性(ローカリティ)の意味など、文学と社会が交差する地点からの発展的な考察も試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の大きな目的の一つに、資料群の整理保存がある。牛久市住井すゑ文学館には未整理の資料群(草稿、書簡、その他)がダンボール70箱以上あり、これらの整理保存をまず行った。2回の出張(合計3泊4日)を行い、16箱の内容確認と目録作成を終えている。 作業のなかで住井すゑの代表作の一つ『夜あけ朝あけ』の草稿が35枚ほど発見された。本作は農村を舞台とした児童小説であり、児童文学者であると共に農民文学者でもある住井すゑの仕事を考えるうえで重要といえる。発見された草稿は主に第一章の部分で、完成作品と同様のプロットが展開されていた。一方、完成作品と比べ本作が農民文学として成立するための要件はあまり目立たず、肉付けが削がれた骨組みという印象を受ける。草稿と完成作品との差異をより具体化することにより、住井すゑの文学において児童文学的な要素と農民文学的な要素とがどのような位置関係にあるのかをより明確化できるだろう。本作草稿の分析は、住井文学の全体像を把握するためにも有効な手段といえる。こうした現段階での見通しを資料紹介も兼ね公表した(『湘南文学』第58号、2023年3月)。他にも興味深い原稿類が多く発見されているが、意味づけについては今後の課題とする。 また、牛久市教育委員会所属の住井すゑ文学館関係者3名および研究代表者を含む3名の研究者によりシンポジウム(於東海大学、2023年3月18日)を開催した。文学館事業そのものの意義や発見された資料の価値、住井文学と社会状況との関連性や住井の人的なネットワークなど、多様な論点が提示された。以上の新資料発見やシンポジウム実施については、複数の新聞・雑誌記事等で報じられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の柱は資料の調査整理・保存、資料の分析調査、それを踏まえた発展的考察の3つである。 資料の調査整理・保存については新たに発見された資料群ダンボール70箱以上のうち、16箱の調査・目録作成を終えた(加えて4箱が目録作成途中)。次年度中に終える可能性が見出せたものの、当初の予定に比べると出張日数を確保できなかったため、作業の進捗はやや遅れぎみである。資料の調査分析と発展的考察についても、発見された『夜あけ朝あけ』草稿の価値や意義をある程度公表できたが、本格的な分析には至っていない。また、『橋のない川』をはじめとした住井文学がどのように受容されたのか、という読者論的な視点からの研究には未着手である。ただし、この研究の材料となる厖大な書簡類の整理作業には、文学館側の尽力により一定の進捗がみられる。 以上、調査整理作業や資料に基づいた分析・考察は少しずつ進んでいるが、まだ十分な成果をあげたとはいい難い。こうした現状の理由としては、次のような点が考えられる。まず、研究代表者側では業務の多忙により、また科研初年度で研究課題の遂行に必要な諸手続きに不慣れであったため、本研究に十分な時間を費やすことができなかった。所属機関側では改組や財務システム変更などの影響により、科研費管轄部署で予算使用の態勢が整うまでに多少の時間を要した。総じて、思うように時間を確保できなかったことが原因といえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは資料群の調査整理・目録作成・保存の作業を継続し、その全貌把握につとめる。また、『夜あけ朝あけ』その他の原稿・草稿類についてより本格的に検討し、住井の文学に対する理解をいっそう深めていきたい。さらにいま年次ごとの整理が進んでいる書簡類を活用して、人々が住井文学をどのように読んだのか、そこからどのような社会状況や人権意識、延いては戦後民主主義社会の実態が浮かび上がるのかを確認していく。本研究課題の題目にある通り、〈文学と社会〉の交点をいっそう意識して進めたい。 本年度は資料紹介を兼ねた研究ノートの発表にとどまったが、上記の方向性を踏まえ本格的な論考の執筆を目指す。また、本年度実施したシンポジウムの活字化も含め、研究成果をまとめた書籍の刊行計画を研究協力者たちと共に今後は考えていきたい。こうした具体的なアウトプットを念頭に置きつつ、研究課題に取り組む。現状では少し難しいかもしれないが、犬田卯についても触れていければ住井を別角度から照らすことになるだろう。 本年度は必要以上に時間をとったと思われる諸手続きや日程調整などを迅速に行うことで、出張をはじめ調査研究に費やす時間をより確保する。また、文学館側を中心とした研究協力者との連携を密にして必要な図書や物品の購入を行い、研究課題遂行のため適切な経費の利用に本年度以上に努めたい。
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Report
(1 results)
Research Products
(7 results)