Project/Area Number |
22K01667
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 07080:Business administration-related
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
高田 一樹 南山大学, 経営学部, 准教授 (20734065)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
|
Keywords | 持続可能な開発目標(SDGs) / 企業の社会的責任 / 経営倫理 / SDGs-washing / SDGインパクト / SDG経営 / 企業の社会的責任(CSR) / 「責任ある経営」 / SDGs経営 / 広報と啓発 / ナッジ |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は国連が提唱した持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて民間企業に能動的な組織行動を「促す」新たな経営論を批判的に検討し、その規範概念を再構築することにある。ナッジおよびオープン・イノベーションの着想を援用しつつSDGs経営を可能とする「責任ある経営」モデルの提示を試みる。 本研究ではSDGs経営の実践事例に加え国連や各国政府、経済団体の言説を分析対象する。また学際的な関心に立ち分野横断的に文献を精読し「責任ある経営」概念の形成過程を経営倫理の観点から考究する。以上の考究を重ねることで経営の自律性と倫理的配慮の妥当性を説明するSDGs経営論の再構築を目指す。
|
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年に国連の全加盟国により採択された国際政治のイニシアチブである。国連は17の目標、169のターゲット、233のグローバル指標を定め、2030年を達成年として広報と啓発を展開してきた。また採択以後、国連は年次報告書を作成し、目標別の現状分析と達成度を公表してきた。2023年は達成年にいたる折り返し地点にあたり、中間評価が行われた。グテーレス国連事務総長は年次報告書の特別版において開発の現状に強い危機感を示し、同年9月開催の首脳級会合「SDGsサミット」で進捗状況が15パーセントにとどまることに触れた。国連が当初描いた青写真と中間評価との乖離には複合的な要因が想定される。 本研究では、SDGsの達成に向けた民間企業の役割とその取り組みに着目してきた。2023年度には企業がSDGsに取り組む動機や誘因を語る言説の分析を試みた。その考察を踏まえ、2024年度には民間企業が開示するSDGs経営に関する情報と、目標達成との関係に照準を絞った。先行研究の精査により、本研究では今年度の課題を次の2点に定めた。1点目に、統合報告書やCSRレポートなどSDG経営の意義を語る民間企業の情報発信と、実際の取り組みとの整合性がどのように論じられてきたのか。そしてもう1つに、民間企業に「責任ある経営」を「促す」国連がどのような政策を構築してきたのか。本研究では言説分析を研究アプローチとし、上述した2つの問いに答えることを試みた。次項に述べるSDG-washingとcherry-pickingに関する言説の分析は国内ではまだ乏しく、その論点整理は一定の学術的な示唆を含むものと考えている。文献資料の収集を進め、論点を整理し、考究を重ねた成果を学術論文(紀要)1編にまとめ本年度の研究を終えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2024年度には、SDG経営に関する企業の情報開示と17目標との整合性を問う言説分析を試みた。その結果、国内の言説は、民間企業の開示情報が17目標の達成に直結する認識を所与として構築されてきたと指摘できる。企業個別の成果とSDGs全体の達成が連続的に語られる半面、民間セクターの実績と169のターゲットとの整合性を問う関心が薄い。 本研究ではこうした関心を明確にするために、主に欧米圏で論じられるSDG-washing(SDGに関する「ごまかし」や「隠ぺい」)とCherry-picking(印象操作)の着想に着目した。本研究では、SDGsの進捗を遅延させる企業行動を念頭におき、これらに言及する先行研究を整理した。そして企業による自主的な情報開示と、SDGs達成に向けた実質的な貢献との乖離を埋めるべく、国連が試みる新たな金融政策を考察した。 本研究では多岐にわたる議論を参照し、次の5点を検討した。1点目に、民間企業がSDG経営に期待する機能と効果を5つに分類できることを示した。2点目に、トップメッセージ、統合報告書、ウェブサイトで用いられるレトリック(修辞、演出)を検討した。3点目に、NGOや研究者がSDG経営を否定的に論評する認識を検討した。4点目に、SDG経営の成果を17目標の達成という観点から評価する、いわゆるインパクト評価と基準の不在を検討した。そして5点目に、個別企業の取り組みを論じるミクロ的な観点と、地球規模の開発促進を評価する国連視点のマクロ的観点とを並列的に論じるカテゴリーミステイクを検討した。以上5つの論点を踏まえ、国際会計士連盟(IFAC)が2020年に公表した「持続可能な開発に関する情報開示勧告」の意義および、国連開発計画(UNDP)が2018年9月に発表した「SDGインパクト」、とりわけSDG経営の情報開示における「透明性」に関する推奨指標の役割を考察した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では今後、SDGsの中間評価を踏まえた民間企業の取り組みおよびその情報開示の変化について考察する計画を立てる。持続可能な開発の遅滞という国連による現状認識は、企業行動にどのような影響を与えるのか。この研究課題は、民間セクターの積極的な参画を呼び掛けるグローバル・パートナーシップ構想の適否と、企業行動の即応性(responsiveness)を検討するうえで有意義な成果を期待できる。さらには社会的な課題の解決を企業の経営課題に接続するCSV(共通価値の創造)経営モデルの拡張可能性を検討するうえでも重要な課題となるだろう。 本研究ではその具体的な方策として3つのアプローチを検討する。1つ目に民間企業が、国連による年次報告や目標別の達成度評価をどれほど認識し、その内容を自社のウェブサイトや統合報告書などを通じどのように反映させるのか。2つ目に、企業がSDG-washingおよびCherry-pickingなど第三者による否定的な評価を避け、「SDGインパクト」に象徴される国連の「促し」にどのように応答するか。3つ目に企業が認識するSDG経営と、国連が期待する民間セクターの役割とのあいだにいかなる整合性を取るか。これらの関心は、H.チェスブロウが1990年代に提唱した「オープンイノベーション」を新たなCSR概念に編み直す構想としてとらえることができる。SDG経営の言説は、CSV、BOPビジネスといった経営モデルに着想を経て、従来型の「インサイド・アウト」型のCSRからどのような要因で「アウトサイド・イン」型に移行するのか。また、国連主導の投資インセンティブを伴う「SDGインパクト」とその啓発活動が、「責任ある経営」への「促し」として企業行動をどれほど変化しうるか。こうした研究関心に立ち、文献収集を進め、その成果を研究会で発表し、また論文投稿に結実させる計画を立てている。
|