Project/Area Number |
22K01891
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
野田 潤 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 講師 (60880755)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
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Keywords | 家族 / 親密性 / 愛情 / 情緒的関係 / 食 / 近代日本 / 現代日本 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、日本の家族の近代性の特徴を、手作り料理という側面から解明する。先行研究は、近代社会では家族愛の規範が社会的に重視され、それが性別役割分業による生活責任と結びつくことを指摘するが、手作り料理とは家族愛規範と性別役割分業の結節点である上、日本の主婦はとりわけ食事作りに手間をかけることが国際比較からも知られるため、日本型近代家族の特性をとらえるのにも非常に適した観測点である。本研究は、「妻・母の愛情の証として手間をかけた手作り料理が必要」「手抜きは悪」という言説がどう成立し、どう維持されてきたのメカニズムを解明すると共に、それが現代の日本においてどのような問題につながっているかを検討する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本における家族の近代性を「親密性」にまつわる社会規範という観点から理論的・実証的に描き出すことを目的としており、その際に特に注目する事例として、家族の「食」という局面に焦点を当てる。1年目である2022年度には、私的領域における親密性の変容をめぐる諸理論について、特にA.ギデンズやU.ベックの再帰的近代をめぐる議論や日本の近代家族論を中心に整理した。 2年目である2023年度は、引き続きこれらの理論的整理を深めるとともに、家族愛や親密性、情緒的関係をめぐる日本の実証研究をより広範に収集・検討し、また報告者の過去の研究も位置づけ直しつつ、本研究にとって核となる理論的視座を確定させた。具体的には、近代日本の家族をめぐる「情緒的関係」の複数性・多元性に注目する必要性こそが、本研究の理論的視座の核となることが確認された。またギデンズ理論において提唱されている「親密性の変容」と、現代日本の実態との間には、ずれが生じていることも浮かび上がってきた。例えば日本においては、「愛情弁当」や母の手料理をめぐる言説の根強さからもわかる通り、「家族の親密性」をめぐるロジックが、今もなお性別役割分業の正当化や母性規範の強化、女性の家事負担の高騰などに寄与しており、こうした状況はギデンズのいう「純粋な関係性」とは異なるものである。 さらにこれらの知見を踏まえたうえで、報告者自身の既存研究を再整理したところ、ギデンズやベックはポスト工業社会における親密性の価値の増大を、「個」の自律性の増大に伴う現象としてとらえているが、現代日本において生じているのは、むしろ「個」を析出しない形での親密性の価値の増大であることも示された。 上記の知見は岩波書店が発行するシリーズ「岩波講座社会学」第10巻「家族」に掲載される論文として執筆済みであり、現在は出版に向けての準備作業中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究での当初の計画では、日本の近代家族について論じた既存の家族理論を整理するとともに、「食」と「親密性」をめぐる関連領域(国内外の重要な理論研究と実証研究)をリサーチ・収集し、報告者の過去の研究成果も援用しながら、新たな分析枠組の構築と補強・精緻化をめざす予定であった。これらの分析作業については、以下に示す通り、当初の予定以上に極めて順調に進行している。 まず、ギデンズ理論が提唱する「親密性の変容」や「純粋な関係性」とは異なる現代日本の様相を、「食」をめぐる現代日本の言説を根拠に、具体的に差し示すことができた。またこうした日本の現況が「食」にも「食」以外の場面にも当てはまることが確認でき、「食」以外の異なるテーマとの連携が可能となった。さらに「個を析出しない形での親密性の強調」という現代日本の特性が新たに発見され、報告者の過去の研究をより発展的な形で新たに意味づけ直すことができた。これらの知見は今後の研究にも生かしうる建設的な視座であるとともに、親密性や情緒的関係をめぐる様々な実証研究や、近代家族論、個人化論などとも広く関連し、貢献しうる。 その一方で、上記の作業とその成果の執筆に対して当初の予定以上の発展・進展があり、当初の予定以上の時間が費やされることとなったため、当初収集する予定だった雑誌記事には遅れが生じた。これについては現在収集中の資料を収集完了させたのちに、投稿論文または研究ノートのかたちで成果をまとめる予定である。 以上をまとめると、既存研究の整理・理論的視座の検討・報告者の既存研究のドラスティックな位置づけ直し・新たな発見と知見の創造については、予定以上の順調な進展があった一方で、知見を補完するためのさらなる実証データの収集には遅れがある。これらを総合的に判断して「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
親密性と食をめぐる言説の複数性をとらえるために、「手作り料理=愛情の証明」という認識枠組が日本で成立する前後の期間、具体的には1950年代から1970年代にかけての『主婦の友』の記事の収集を完了させ、当時の新聞記事(一般紙)にみられる「論争」との比較を行う。なお新聞記事の収集・分析は既に完了している。 1960年代の新聞記事(一般紙)の分析結果としては、「手作り弁当=愛情」という認識のもとで、手作り弁当に賛成する意見もあったが、その逆に「人前で愛情をアピールすること」そのものへの嫌悪感や、外食の満足度を重視することで愛情規範を無効化するといった言説も見られた。 一般紙におけるこうした論調と、家庭の主婦を対象にした『主婦の友』の論調にいかなる異同が見られるのか、また賛否両論の状況から、いかにして「手作り=愛情」の言説が勝利し、支配的言説となっていくのか、そのプロセスを明らかにすることが2024年度の目的である。7月までに資料収集と分析を完了させ、結果をまとめたものを9月に投稿する予定である。
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