Project/Area Number |
22K05017
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 32010:Fundamental physical chemistry-related
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
住吉 吉英 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (50291331)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,770,000 (Direct Cost: ¥2,900,000、Indirect Cost: ¥870,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
|
Keywords | 分子クラスター / コヒーレント2重共鳴分光 / ライトシフト / 分子間振動ダイナミクス / 電気双極子モーメント / パラ水素クラスター / 星間化学 / マイクロ波分光 |
Outline of Research at the Start |
近年,電波天文観測によって,星間分子の量子状態が熱平衡状態とは異なる特殊な分布をしている事がわかってきた。これは,パラ水素で構成される星間分子雲との相互作用に起因すると考えられるが,これまでその影響を考慮した研究は行われていない。極低温下のパラ水素分子の集団は,マクロな量子性を発現する事が知られているが,星間分子雲も類似の性質を有する可能性がある。本研究では,新しい高感度2重共鳴分光法を用いて,星間分子を内包したパラ水素クラスターの分子間振動ダイナミクスを明らかにし,その知見を基に星間分子雲の量子効果の影響を検証する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は,12.4-18GHz帯のマイクロ波ホーンアンテナを購入し,前年度に完成したマイクロ波2重共鳴分光装置の観測可能領域を低周波数側に拡張した.この装置を用いてクラスターのマイクロ波二重分光実験を行った.実験は,生成が比較的容易で,既に純回転遷移周波数が報告されているアンモニア分子とアルゴン原子Arから成るAr-NH3クラスターを対象に行った.1つの回転量子状態を共有する2種類のa-type遷移の組を選んで,マイクロ波二重共鳴分光実験を行い,ACシュタルク効果の一種であるライトシフトを観測した.この実験では,アンモニア分子の窒素原子核に由来する核四重極子による超微細分裂の成分を分離して2重共鳴分光を観測する事に成功した.電気双極子モーメントが正確に分かっている硫化カルボニルOCSのライトシフトの周波数から,二重共鳴で用いたマイクロ波の正確な電場強度を見積もり,その情報とAr-NH3で観測したライトシフトの離調度に対する遷移周波数変化から,Ar-NH3の電気双極子モーメントのa軸成分を,0.334 Dと決定した.Nelson Jr.らによる先行研究では0.280 Dと報告されている.CCSD(T)/aug-cc-pVTZによる高精度ab initio計算の値は,最安定構造において0.381 Dと見積もられ,大振幅振動運動の影響を考慮すると,このab initio計算結果は我々の決定した値を支持すると考えられる. 同様の実験をクリプトン原子KrとOCSから成るKr-OCSクラスターについても行い,電気双極子モーメントのb軸成分を0.388 Dと決定した.2重共鳴実験で新たに純回転遷移を観測する事で,先行研究よりも精度の高い回転定数を決定する事ができた.決定した回転定数から慣性欠損の値を見積もり,Kr-OCSの分子間変角振動運動の周波数を25.3 cm-1と見積もった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は,前年度に開発したマイクロ波2重共鳴分光装置を用いて,2種類の分子クラスターを対象に,ACシュタルク効果の一種であるライトシフトを観測する事ができた.これにより,開発した分光装置が分子クラスターに対して2重共鳴スペクトルを観測するのに十分な感度を有している事を確認した.また,ライトシフト効果から分子クラスターの電気双極子モーメントの値や,分子構造,および分子間振動運動に関する情報を引き出せる事も確認できた.これらの情報は,分子間相互作用ポテンシャル曲面を精度良く決定するうえで有用な情報であり,本研究の遂行において重要な役割を果たすものである. 上述のとおり,本研究における主要な装置であるマイクロ波2重共鳴分光装置が,分子クラスターに適用可能であり,尚且つライトシフト効果を観測するのに十分な分解能と検出感度を備えている事を実験的に検証できた事から,本研究がおおむね順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
水素分子と,星間分子であるHClやHFから成る分子クラスターを対象に,開発を終えたマイクロ波2重共鳴分光装置を用いてライトシフトの観測を行う.試料の混合比やマイクロ波照射タイミングなどを調整する事により分子クラスターの生成条件を最適化し,水素分子と星間分子の1対1クラスターだけでなく,多数の水素分子が結合した水素分子クラスターの検出を試みる.これらの分光データから,パラ水素分子クラスターの分子間相互作用ポテンシャル曲面を決定するための分光データの収集を進める. 実験と並行して,令和4年度に開発した,分子クラスターの回転遷移周波数とその超微細分裂成分の情報から分子間相互作用ポテンシャルを決定するための解析プログラムの拡張を行う.現在の仕様は,1つの核スピンを含む系にしか適用できないが,2つ以上の核スピンによる超微細構造分裂にも対応できるように拡張し,パラ水素クラスターだけでなく,オルト水素クラスターの超微細分裂データを含めた同時解析も行えるようにする.この同時解析によって,パラ水素分子とオルト水素分子間における分子間相互作用の違いを見出し,パラ水素分子の量子効果発現のメカニズム解明を目指す.
|