昭和初期文壇における「唯物論」受容の多面性に関する総合的研究
Project/Area Number |
22K13031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
加藤 夢三 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90906207)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2025: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | 唯物論 / 新感覚派 / 探偵小説 / 科学 / マルクス主義 / 横光利一 / 昭和初期 / 知識人 / 文壇 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、昭和初期文壇における「唯物論」受容のあり方を整理することで、同時代の文学者たちが抱いていた「物質」観の多面性を検討する。従来、昭和初期の「唯物論」は、主に素朴実在論に基づいたマルクス主義思潮との結束が指摘されていた。しかし昭和初期という時代は、こうした「物質」観が様々な面で綻びを見せはじめ、その理解の仕方をめぐる新たな認識論的探究が始動した時期にあたり、先端的な文学表現の担い手たちも、自身の方法意識の模索にあたって上述のような問題系を精力的に摂取していた。こうした文芸思潮の展開を、より相互に関連づけて横断的に考察することが本研究の狙いである。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、雑誌『國文』第139号に「主観の交響圏――石原純・賀川豊彦・新感覚派」を投稿、掲載された。同論は、1920年代の論壇・文壇で討究された〝客観から主観へ〟という時代思潮の流れを踏まえたうえで、石原純・賀川豊彦・新感覚派の言論活動を検討した。1920年代前半の日本では、いわゆる〝特殊/一般相対性理論ブーム〟など、先端的な理論物理学の成果を踏まえた知的革命の可能性が盛んに考察されていた。石原純は、その紹介者として名高く、同時期に覇権を握っていたマルクス主義に集約される社会思想のあり方とは異なる思考の枠組みを、人文・社会系知識人に育むための礎石を築いた。賀川豊彦は、こうした理科系の学知の構造的変容を踏まえつつ、「主観経済学」なる独自の学術体系を構想していく。また、新感覚派とその周辺の書き手たちも、従来の自然主義的な文芸理念とは別の次元に自身の〝新しさ〟を託していくのだが、その際に強調される認識論的な思索の発現もまた、先端的な科学思想を背景とした「主観」の権能と結びつけられるものであったことを明らかにした。 また、雑誌『昭和文学研究』第88集に「発明のエチカ――海野十三の探偵/科学/軍事小説」を投稿、掲載された。同論は、日本SFの始祖として名を挙げられる海野十三の文筆活動を検討した。海野は、探偵小説の書き手として自身のキャリアを確立させたが、1935年前後を境として「科学小説」という新興の文芸ジャンルを創設することに意欲的な姿勢を見せていく。海野は、それを探偵小説の「低級化」と呼び表わし、むしろ「発明」の新奇さによって読み手の興味・関心を惹起するような記述営為を積極的に肯定していたが、そのような作意のあり方は、戦時下において「発明」という営みが政治的有用性と結びつくなかで、次第に「軍事小説」の物語文法へと近接していくことにもなることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学術雑誌に2本の論文を投稿、掲載することができ、順調に研究成果を発表することができていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、1920年代の探偵小説の分野における唯物論的な思想概念の拡がりをさらに検討したい。 具体的には、黎明期の探偵小説家として知られる小酒井不木の初期小説(『恋愛曲線』『人工心臓』など)について、その方法意識が同時代のどういう科学文化と交叉するものであるのか、また探偵小説という文芸ジャンルに対して、不木がどういう姿勢で臨もうとしていたのかを、当時の評論・随筆などを渉猟しつつ明らかにしたい。 また、同じく1920年代の探偵小説を牽引していた甲賀三郎の文業も併せて検討したく思う。その際、とりわけ1920年代において、法医学の識見が当時の探偵小説界で着目されていたことを踏まえつつ、特に長篇小説『支倉事件』(『読売新聞』1927.1.25~6.26朝刊)を考察する。『支倉事件』は、実際に起こった強姦殺人事件(=島倉儀平事件)に着想を得つつ、支倉喜平という一人の凶悪犯罪者が逮捕され、その口述内容を幾度も覆しながら、法廷で検察との激しい闘争を繰り広げていくまでの顛末を描いたものである。そこには、犯罪捜査の心的/物的証拠に関わる諸々の共時的文脈が刻まれている。次年度は、1920年代における甲賀の法医学受容を検討することで、その「本格」一辺倒と思われていた文学活動に介在する微妙な振幅を炙り出してみたい。 その他、これまで発表してきた研究成果を社会に還元するという意味で、単行本の刊行を予定している。
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Report
(2 results)
Research Products
(4 results)