アフォリズムの生成過程をめぐるメディア文化史的研究―ドイツ近代の作家を手掛かりに
Project/Area Number |
22K13096
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
二藤 拓人 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00878324)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 受容美学 / 制作美学 / 手稿・草稿 / 編集文献学 / 文化技術 / 百科全書 / シュレーゲル / ノヴァーリス / ドイツ・ロマン主義 / アフォリズム / 文化学 / ドイツ近代 / メディア論 / 断片・断章 |
Outline of Research at the Start |
近現代における「アフォリズム」は、これまで思想と文学の双方の領域で、学問制度の外側に属する革新的な作家が自らの哲学思考に基づき選択した一表現形式とみなされてきたが、本研究は、作家個人の哲学思考そのものが〈アフォリズム的なものを書く〉という具体的作業を通じてはじめて成立しえたという独自の着眼点から、18世紀ドイツ近代におけるアフォリズムの生成過程と当時の書記実践に関する実態調査を行う。そのために、啓蒙期からロマン派に至る代表的なアフォリズム作家のテクストを、それが成立した現場に差し戻し、手稿の複写資料を手掛かりに、そこに作用するメディア文化的背景や文化技術上の諸条件を可能な限り再構成する。
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Outline of Annual Research Achievements |
23年度はアフォリズムの受容美学ないし制作美学に関連付けた文化史的な分析に関して、2本の論文を執筆・公開するなどのみるべき研究成果が得られた。 第一に、初期ロマン派シュレーゲルにおける断章形式の実践を手掛かりに、近代の「アフォリズム」の対話哲学ないし哲学的思考としての可能性をメディア論に依拠して考察し、論文として発表した。そこで、まず18世紀ドイツ近代を文字メディア文化の台頭する時代として整理したうえで、シュレーゲルが構想し、公にしたアフォリズム集『アテネーウム断章集』が、口頭による対話哲学(ないしそれを再現した対話篇)の伝統や同時代の書簡体の著述などに比べて読者に対してより対話性に開かれた〈読みのモード〉を提供しているという点を論じた。その際、当著作の手稿段階での書記実践が編集を経て活字紙面上に提示されるときにテクストとしてどのような外的特質を帯びることになったのかについて論点とすることで、本研究の関心である、18世紀における〈読み/書き〉の文化技術とアフォリズムの生成過程との関連性に考察を接続させた。 第二には、シュレーゲルとノヴァーリスの代表的なアフォリズムに依拠しながら初期ロマン派の文芸批評理論をまとめ、それを現代アニメ映画の作品論へと応用する試論を執筆する機会をもった。具体的には、ロマン派における断片・断章の理論と実践を、映画『君たちはどう生きるか』の鑑賞時に生じる混乱、例えば作品の読解とその理解/不理解のプロセスへと適用した。この作業によって、初期ロマン派におけるアフォリズムの文体が、彼らの受容美学(読者論)と制作美学(作品論)を背景にして戦略的に選択された表現形式であることを再確認・再検証することにも繋がった。そのため当論考についても、本研究の理論的基盤を固めるための意義ある成果に含まれると捉えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、アフォリズムの生成・成立のプロセスを複数の作家の比較参照を通じて捉え返し、ある種の文化実践として複合的に分析・把握することを目的としている。その際に、制作現場で産出されるアフォリズムの書法の体系的考察(=資料研究;手稿研究)、当時の出版資料を参照する18世紀におけるアフォリズムの実態調査(=実証研究;出版・編集の研究)、メディア史、書物・読書史、書字史、文化技術史の基礎理解(=文化研究;総合研究)の三点を本研究の要にしている。 23年度は、初期ロマン派のシュレーゲルやノヴァーリスらのアフォリズムに関する「実証研究」ないし「総合研究」が中心となった。前年度はアフォリズムの編集・出版の歴史に焦点を当てたのに対し、今回はロマン派のアフォリズム群をテクスト内在的に分析したうえで、一方で書簡形式との比較を通じた断章形式の特性を明らかにし、また他方ではアフォリズム文体のジャンル横断的な応用の可能性を検証した。これにより18世紀のメディア文化史とロマン派における読書・読者論や文体・作品論についての論点を整理できたことは、本研究に資する成果として評価できる。 しかしその一方で「資料研究」の成果報告についてはやや遅れが生じている。予定していたノヴァーリスのアフォリズム遺稿集『一般草稿』に関する編集文献学的研究については論考を発表するに至らなかったため、次年度以降の継続課題となる。また、ロマン派とそれ以前の啓蒙期の作家(リヒテンベルク、レッシング、ヘルダーなど)のアフォリズムとの相違点・類似点をめぐる考察については、特に啓蒙の作家(例えばレッシング)の遺稿・草稿資料がわずかにしか現存していない場合も少なくないことが新たに判明した。どの作家の遺稿資料が参照可能であるかについて今一度調べたうえで、24年度下半期より開始されるドイツでの研究滞在に備えていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度より継続している、近代における「メモ書き/ノート」の文化技術に関連付けたアフォリズム生成の分析を、書字文化研究のアプローチ(Decultot 2014等)に沿って進めていきたい。特に、18世紀の作家の書いたアフォリズムが「抜粋・抄録」「要約」「集成」を目的とする読み/書きの知的伝統とどのように関係しているかという点を、ヴィンケルマンの遺稿(抄録集)やリヒテンベルクの『雑記帳』を手掛かりに検討し、例えば分類表記(見出し語、表題、番号付け等)の有無をめぐって、ロマン派の断章的書記との連続性や相違点を明らかにしたい。その際にアフォリズムが、書き手の「思考」が中心となって成立している場合ではなく、むしろそれが当人の読書、抜粋、要約などとともに生じた複合的な言表に属する場合について詳細に分析することが目指される。本研究の関心はこうした「副次的アフォリズム」(Spicker 2012)の側に現れている文化技術に注目する点にある。 24年度の8月よりドイツ・ミュンヘンを拠点に一年間の在外研究を予定している。以上の構想・計画も含めた、啓蒙期からロマン派の作家を中心にした手稿・遺稿に関する資料研究調査は、この渡独期間を利用して集中的に進めていくつもりである。 また、23年度に聴講参加した日独共同研究グループ「文化接触(KuKo)」による書字文化研究プロジェクト「文筆の文化実践(Kulturelle Praktiken von Schrift)」の枠組みで、国際論文を寄稿する。現段階では、ロマン派シュレーゲルの手稿に見られる、省略記号が多用された概念操作・結合術に関する書記技術についての研究成果をドイツ語で発表する予定でいる。
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Report
(2 results)
Research Products
(8 results)