Project/Area Number |
22KJ0110
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Project/Area Number (Other) |
22J20373 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
稲荷森 輝一 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,500,000 (Direct Cost: ¥2,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2023: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2022: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 自由意志 / 道徳的責任 / 直観 / 決定論 / 哲学的専門性 / 実験哲学 / 医療倫理 / 自律 |
Outline of Research at the Start |
現代自由意志論では、道徳的責任に必要な自由意志と決定論的世界の両立可能性が問題とされてきた。両立論によれば両者は両立するが、非両立論によれば二つは両立しない。本研究では 、心理学的手法を用いて人々の直観を経験的に調査する研究手法である「実験哲学」的研究、およびその哲学的分析を通じ、決定論的行為と道徳的責任の両立可能性に関する人々の直観が産出されるプロセスを解明する。それによって、人々は両方の直観を有するため、両立論と非両立論はいずれも直観的に正当化可能であるとする「多元論」的解釈の可能性を模索する。また、こうした自由意志に関する哲学的議論が現実の道徳的実践に対して有する含意を明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度は大きく分けて二つの問題に取り組んだ。第一に、昨年度より継続して行ってきた、自由意志・道徳的責任と一般人の直観に関する実験哲学的研究のアウトプットに注力した。本研究は決定論の誤解のうち、決定論と運命論の混同であるバイパス判断が広範に見受けられ、かつ決定論的行状況における自由意志・責任帰属直観に対して高い説明力を有すること、および処罰欲求が責任帰属に対して高い説明力をもつことを示した。欲求の影響は、当初の計画で構想していた、一般人の直観的な自由意志概念に関する多元論的見解の妥当性を支持しているという点で注目に値する。本成果は、国際会議、3rd European Experimental Philosophy Conferenceで報告し、論文はプレプリントとして公開されている。また、後述する哲学的専門性の問題に関連して、理解エラーの有無をより厳密に精査するための新たな実験を実施し、成果をEuropean Experimental Philosophy Workshopで報告した。 第二に、昨年に引き続き、自由意志の実験哲学における理解エラーの問題に着目し、哲学的専門性と直観産出の関係について研究を行った。とりわけ、一般人の直観の非-信頼性は専門家である哲学者の直観の非-信頼性を含意しないとするEXpertise Defenseに着目し、理解エラーの観点から本論証を擁護する新たな議論の構築を試みた。本成果は日本哲学会および国際会議AAPにおける発表を経て、国際誌を含む二つの論文で公刊されている。本研究によって、当初計画していた直観に関する多元論から形而上学的な多元論への導出における課題が浮き彫りとなった。また、こうした哲学方法論上の研究に関連して、LLMを用いた実験哲学の有用性に関する研究を実施し、LLMの活用可能性および信頼性についてSPT 2023等で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は国内外で数多くの口頭発表を実施したほか、論文についても国際誌を含め複数本発表することができた。当初の予定よりも多くの研究成果をアウトプットできており、その点では当初の計画よりも順調に計画が進展していると言える。計画が順調に進展している理由としては、決定論の理解エラーついて実施した昨年度の研究成果と直観の信頼性に関する成果を組み合わせ、新たな実験の実施にこぎつけることができたこと、それを通じて見込み通りの成果が得られたことが挙げられる。 また、本年度はAI研究者との共同研究も始まり、昨年度の成果を踏まえて実験哲学におけるLLMの活用可能性に関する研究に取り組んだ。異分野の研究者から新たな着想を得て新規の研究に取り組めたことも、研究発表等のアウトプット数増大に寄与している。加えて、本年度は医学部地域枠制度の倫理的問題点に関する論運を出版したほか、恋愛感情に対するパターナリズム介入に関する研究についても口頭発表を行った。このように、本課題に関連する応用倫理学的な課題にうまく研究対象を拡大することができ、かつそれらの研究が順調に推移したことも、多くの成果公表につながっている。 一方で、本年度プレプリントとして公開した自由意志に関する実験哲学的研究の成果については、当初の計画では昨年度すでに公開する見込みであったことや、そのほか全体として論文の執筆に遅延が生じていることも否定できない。複数プロジェクトの同時並行によって昨年来進めてきた研究についてまとめて論文が出版され、多くの口頭発表を行えている反面、論文の原稿化が後回しになり、全体として論文としての業績化に遅れが出てしまっている。この点とアウトプットの数とを総合的に勘案すると、計画は概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、第一に、決定論的行為に関する直観産出プロセスにおける処罰欲求の役割についてさらなる解明を進めていく。すでに決定論と自由意志・道徳的責任に関する両立論的直観の産出と処罰欲求との間に強い関連があることは明らかとなっているが、処罰欲求が両立論的直観にとってどれだけ本質的であるかは定かでない。すでに昨年度、欲求を他の変数から独立して操作することでこの点の検証を試みたが、十分な成果を得ることはできなかった。今後は新たな実験手法を用いて、欲求の影響をどのように評価すべきかを明らかにしていく。この作業を通じて、当初予定していた多元論的な見解、つまり、人々は両立論的直観と非両立論的直観のいずれも有するという見解の妥当性を検証できると期待できる。 また、哲学的専門性と直観の信頼性について、従来提示されてきたExpertise Defenseの擁護に留まらない仕方で、思考実験の正確な理解を可能にする哲学的専門性と直観の信頼性を直接架橋する理論の構築を試みる。同時に、実験哲学という方法論が哲学的概念の探究にいかなる寄与を果たしうるか、という哲学方法論的な問題についても研究を始める。これらの作業を通じて、実験哲学を通じてえられる人々の直観データから自由意志に関する形而上学的な議論にいかなる含意を得ることができるかを解明する。 さらに当初の計画で予定していた多元論の実践的含意についても研究を進める。とりわけCarus o(2020)が提唱する応報的刑罰の正当化に対する「認識論証」に着眼し、これまでに得られた直観に関する実験データ、およびそれらの信頼性を踏まえ、自由意志を前提とした応報的刑罰の正当化がどこまで妥当なものであるかを検証する。
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