トランス脂肪酸の生体内産生機構とその病態生理学的意義の解明
Project/Area Number |
22KJ0221
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Project/Area Number (Other) |
22J10429 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 47030:Pharmaceutical hygiene and biochemistry-related
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 侑杜 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,700,000 (Direct Cost: ¥1,700,000)
Fiscal Year 2023: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2022: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | トランス脂肪酸 / 内在性トランス脂肪酸 / フェロトーシス / 共役脂肪酸 / 酸化ストレス |
Outline of Research at the Start |
トランス脂肪酸は循環器系疾患をはじめとする諸疾患の危険因子であるが、生体内の脂質合成系では産生されないため、従来その由来は、食事のみの「外来性」であると考えられてきた。近年、酸化ストレス時などに非酵素反応によって産生される「内在性」トランス脂肪酸の存在が示唆されているが、その産生実態や病態生理学的役割については不明である。本研究では、天然に存在する共役脂肪酸についても広義の内在性トランス脂肪酸として捉え、その産生実態、体内動態や機能的役割の解明を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
トランス脂肪酸は、循環器系疾患・神経変性疾患などの危険因子とされてきたが、従来その由来は食品を通して摂取する「外来性」のみであると考えられてきた。しかし、我々はこれまでに、顕微ラマン分光法を利用した簡便かつハイスループットなライブイメージング解析により、トランス脂肪酸が酸化ストレス条件下で生体内においても産生されることを明らかにしていた。そこで本研究では、これまで「外来性」の毒性因子とされてきたトランス脂肪酸の「内因性病態関連脂質」としての新たな病態生理学的役割を解明し、各種関連疾患との関連性を明らかにすることを目的に、内在性トランス脂肪酸のより具体的な産生実態(生理的な産生条件・体内動態)について解析を行った。 本年度はまず、内在性トランス脂肪酸の具体的な生理的産生条件や分子種などを同定するために、独自のトランス脂肪酸検出系(顕微ラマン分光分析法や質量分析装置による脂質解析)を利用し、刺激条件等の網羅的検討を行った。その結果、非典型的プログラム細胞死「フェロトーシス」の誘導時に、細胞内でトランスアラキドン酸と呼ばれるトランス脂肪酸が産生されることを新たに発見した。フェロトーシスは、細胞膜上のシスアラキドン酸の過酸化を起点として誘導されるが、トランスアラキドン酸には、シスアラキドン酸のようなフェロトーシス促進作用が認められなかった。詳細な解析から、トランスアラキドン酸は、細胞膜上の膜タンパク質Xを標的とし、その機能を抑制することで、フェロトーシスの抑制に寄与していることが示唆された。また、天然に存在する「共役脂肪酸」を広義の内在性トランス脂肪酸の一種と捉え、発展課題としてその機能解析を行った結果、フェロトーシス誘導能とその分子機構の一端を明らかにできた。以上より、当初の研究計画に加え、発展課題にも進展が見られることから、研究は概ね順調に推移している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、内在性トランス脂肪酸の具体的な生理的産生条件や分子種などの同定を行った。独自のトランス脂肪酸検出系を利用し、刺激条件等の網羅的な検討を行った結果、非典型的プログラム細胞死「フェロトーシス」の誘導時に、細胞内でトランスアラキドン酸が産生されることを新たに見出した。フェロトーシスは、細胞膜上のリン脂質中のシスアラキドン酸の過酸化を起点として誘導される細胞死であるが、トランスアラキドン酸には、シスアラキドン酸のようなフェロトーシス促進作用が存在しなかった。詳細な解析から、トランスアラキドン酸は、フェロトーシス促進的に働く細胞膜上の膜タンパク質 Xをターゲットとし、その活性を抑制することで、フェロトーシスを抑制していることが示唆された。実際に、膜タンパク質Xの阻害剤存在下では、フェロトーシス誘導剤による細胞死が顕著に抑制された。したがって、本機構は、シスアラキドン酸が過酸化を受けるような酸化ストレス時に、一部トランス異性化することでフェロトーシスを抑制するネガティブフィードバック機構として存在していることが示唆され、がん細胞のフェロトーシス耐性(がんの増悪)に寄与する可能性等が想定される。 天然には、反芻動物の胃内の共生微生物が産生する共役リノール酸や、ゴーヤやザクロなどの一部の植物中に含まれる共役リノレン酸などの、共役したトランス型二重結合を有する共役脂肪酸が存在する。これらの脂肪酸を、広義の内在性トランス脂肪酸と捉えて機能解析を行った結果、フェロトーシスを強力に誘導する作用を見出し、本作用にトランス型二重結合が重要であることが明らかになった。 以上のように、内在性トランス脂肪酸の新たな産生条件、およびその機能的役割の解明が進んだこと、発展課題についても進展が見られていることから、本研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の解析から、トランスアラキドン酸のフェロトーシス誘導時における産生とその機能的役割が明らかになったが、他のストレス条件や細胞死誘導時における、トランスアラキドン酸の産生や影響の有無を評価し、未知の機能的役割の探索・同定を目指す予定である。また、EPAやDHAなどのアラキドン酸と同様の高度不飽和脂肪酸についても、そのモノトランス型はフェロトーシス促進作用を有さないことが確認できており、これらの脂肪酸種についても、フェロトーシス誘導時の産生の有無や機能的役割について解析を行っていきたい。本研究は、イタリアの研究グループとの国際共同研究として遂行中であり、今後も緊密な連携を取りながら、これまで得られたデータを論文としてまとめ、論文投稿を行う予定である。 発展課題としてスタートした、共役脂肪酸によるフェロトーシス誘導作用については、正常細胞と比較し、がん細胞の共役脂肪酸に対する感受性が高いことから、フェロトーシスをがん細胞選択的に誘導可能であることが示唆されている。しかし、がん細胞種間でもその感受性が異なることが分かっており、そのような感受性の違いを規定している原因を突き止めることができれば、共役脂肪酸がターゲットできるがん種の同定や、がん細胞選択性の向上が期待できることから、今後はその原因の究明を目指すと共に、がんの予防・治療への応用も見据えた解析も行っていきたい。また、共役脂肪酸がフェロトーシスを誘導する機構として、過去の知見から、脂肪滴における脂質過酸化の誘導が重要であることが示唆されているが、本年度の予備的な解析結果から、脂肪滴ではなく、ある別の細胞内オルガネラが脂質過酸化およびフェロトーシスの誘導に重要な役割を果たしていることが分かってきており、今後はその詳細な機構や役割の解明を目指していきたい。
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Report
(1 results)
Research Products
(3 results)