帝国日本における「植民地台湾・朝鮮書道史」の成立とその展開―自主・協力・抵抗
Project/Area Number |
22KJ1015
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Project/Area Number (Other) |
22J20502 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柯 輝煌 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,500,000 (Direct Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2023: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2022: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
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Keywords | ナショナリズム / 小中華思想 / 植民地台湾・朝鮮 / 書道 / 近代美術 / 呉世昌 / 李逸樵 / 興亜 / 箕子朝鮮 / 漢字 / 大韓帝国 / 華夷思想 / 書芸 / 朝鮮美術展覧会 |
Outline of Research at the Start |
本研究では書家であり、民族運動者でもある呉世昌による言論、作品、書物を中心に分析する。時間軸としては、大韓帝国期から植民地期への推移を注目する。美術や書道(漢字、文字)の問題にとどまらず、華夷思想とナショナリズムの変遷と絡む課題を検証し、書家である呉世昌が直面している葛藤を明らかにする。 大韓帝国成立以後、漢字とハングルについての論争(地位の変化)は檀君と箕子の地位の変化と密接に関わってくると思っている。次の方向性として、大韓帝国の成立から韓国併合への過程で、檀君と箕子をめぐって、どのような論争や鬩ぎあいがあったのかを解明することは次の目標である。
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Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究では植民地期の台湾、及び朝鮮の書家たちによる作品の分析を中心としてきた。主なテーマは以下の通りである。①東アジア地域において、西洋から移植された「美術」の概念と制度に伴い、書の位置付けはどのように変容していったのか、日本の植民地支配といかに関係するかを分析すること②書家でありながら、民族運動家の顔も持つ人物をピックアップし、ナショナリズムにより書道史がどのような原理で編纂されたのかを解明すること。 去年の課題を引き続き検討し、呉世昌によって1901年に『書之鯖』という書物が編纂されるロジックを分析し、その内容を明治美術学会の機関誌である『近代画説』に投稿した。研究成果を踏まえたうえで、新たな課題が浮上した。大韓帝国期のみならず、植民地期において呉世昌にとって「小中華思想」を代表する箕子崇拝と朝鮮民族のナショナリズム(檀君)は相容れない存在であったのかは改めて考えるべき課題だと思われる。 なぜならこれまでの先行研究は植民地期(天皇制国家)において檀君を中心とするナショナリズムの変容に集中していたからである。しかし、植民地期に朝鮮の知識人たちにとって、箕子がどのような機能を果たしたのかは注目されてこなかった。この問題を検証するため、植民地期における呉世昌の言説と作品を考察した。1917年に脱稿した『槿域書画史』で檀君に言及する一方で箕子の存在も強く意識していたことである。例えば彼は1918年に殷商王朝の甲骨文を制作している。また、興味深い作例として1925年に書かれた屏風には「中華」の書跡が選択されながら、「槿域」というナショナリズム的な意味合いがある印鑑も屏風の上に押されている。従って、呉世昌にとって植民地期においても「檀、箕」が共存できることが窺える。 次の段階として申采浩などの朝鮮知識人を視野に入れ、ナショナリズムの理念をめぐる呉世昌との異同を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
呉世昌の書芸観を深く理解するために資料の収集を行った。まず日本国内では奈良天理大学図書館に所蔵されている尺牘の写本である『洪海居呉亦梅受贈清儒尺牘』を調査した。この資料は呉世昌の父親呉慶錫(1831-1879)によるもので、呉慶錫の清朝の官僚との交流記録や、どのような書の作品や拓本を所有していたのかまで記録されている。呉世昌のコレクションの大半は父親から継承したものであるため、呉世昌がどのような書の作品に触れ、学んでいたのかを知るための重要な資料と言える。 また、2023年9月7日から12月25日まで呉世昌の展示が韓国国立中央博物館で開催された。展示にはこれまで公開されていなかった作品もあったため、渡韓し撮影を行った。重要なのは今回展示された作品は主に植民地期に集中しており、植民地支配下において呉世昌がどのような状況に直面し、作品の制作がされたのかを今後の課題として考察していきたい。 さらに、「朝鮮書道史」の言説や編纂に関して、新たな資料の発見があった。比田井天来(1872-1939)が『朝鮮書道精華』を編纂する際に、朝鮮総督齋藤実(1858-1936)宛の手紙が三通、朝鮮の書家金敦熙(1871-1936)から比田井天来宛ての手紙が一通残っている。編纂された経緯を明らかにするため、その内容の解読作業を行う予定である。 一方、植民地台湾の場合では、『台湾日日新報』の報道や内地で発行された書道雑誌を通じ、当時活躍していた書家たちの名前が相次いでわかるようになった。次の段階として彼らの作品を収集したうえで書芸観と書風の分析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は主に以下のような三つの方向に沿って進む予定である。 1、植民地支配下において「ナショナリズム/民族文化」の変容は政治状況といかに連関するのかを解明するため、呉世昌のみならず朝鮮の書家金敦熙や比田井天来における「朝鮮書道史」の編纂をめぐるそれぞれの立場や発言の文脈を精査することが次の課題である。 2、本研究は植民地朝鮮のみならず、植民地台湾でも視野に収める。以前の研究では台湾書家・李逸樵(1883-1945)を中心に、彼の書風の変化を考察した。その変化の理由は台湾総督府官僚である尾崎秀真(1874-1949)が構築した「台湾書道」の言説と深く関わっていることを明らかにした。李逸樵のケーススタディを皮切りに、当時日本内地の日本美術協会、泰東書道院、東方書道会、興亜書道連盟で活躍していた台湾の書家たちに焦点を当て、書風の選択と変化を植民地支配との関連性において考察する。 3、現時点での研究は植民地における書家のケーススタディが中心だが、今後はこれらの書家たちの研究を深化させると共に、よりスケールの大きな研究を目指したい。その目的を達成するために戦前に出版された膨大な書道雑誌から植民地台湾・朝鮮と関連する事項を抽出し、新しい課題を洗い出す。また、戦時期に入ると書道の役割はいっそう日本の政策と結びつくことが窺える。例えば戦時期に『興亜書報』、『興亜書宗』、『東亜書道新聞』などの雑誌や新聞が相次いで刊行されており、書道を媒体として「東亜民族」についての言説も現れた。植民地支配において書道がどのような役割を果たしたのかを考える上で非常に貴重な資料であり、分析していく。以上で述べた調査と研究の成果をまとめ、学会での発表や学会誌に投稿する予定である。
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Report
(2 results)
Research Products
(6 results)