Project/Area Number |
22KJ1255
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Project/Area Number (Other) |
22J12780 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 03060:Cultural assets study-related
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
國方 沙希 東京藝術大学, 美術研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-06-29 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2023: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2022: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
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Keywords | 油彩画の修復技術 / ワックス裏打ち / 剥離 / 非破壊検査 / 赤外線アクティブサーモグラフィー法 / テラヘルツ波時間領域イメージング法 / 描画材料 / 油彩画修復技術 / 赤外線アクティブサーモグラフィー / テラヘルツ波時間領域イメージング |
Outline of Research at the Start |
キャンバスに描かれた油彩画の修復手法の一つに、作品の裏面から補強用の新たな布地を接着する「裏打ち」と呼ばれる手法がある。なかでも、蜜蝋に各種の樹脂を添加した蜜蝋系接着剤による「ワックス裏打ち」は、20世紀の日本で多く実施された。しかし、その後の経年変化で様々な問題が生じ、一部の作品では再修復の必要が生じている。本研究では、各種の非破壊検査を適用し、ワックス裏打ちされた油彩画に見られる損傷の状態を詳細に観察する。さらに、蜜蝋系接着剤の物性の測定・分析や他の裏打ち接着剤との比較の結果を踏まえ、損傷の発生要因を考察するとともに、作品にとってより安全な修復手法の提示を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本に多く存在するワックス裏打ちされた油彩画作品について、それらをより良い状態で後世に残すべく、適切な再修復手法を提示することにある。再修復処置を必要とする損傷は作品によってさまざまだが、なかでも、裏打ち布が作品から部分的に剥離する事象に着目し、その処置方針を検討することとした。 はじめに、裏打ち布が剥離しているように見える美術館所蔵作品に対し、赤外線アクティブサーモグラフィーおよびテラヘルツ波時間領域イメージング法を用いて、その剥離の状態把握を行った。これら手法の適用により、裏打ち布を取り外すことなく、剥離位置の特定や接着面の状態観察を行うことが可能になる。続いて、蜜蝋系接着剤の成分組成の分析や温度特性の解析、剥離接着強さの測定を実施し、接着剤の物性の観点から剥離の発生要因を探った。それらの結果を踏まえ、ワックス裏打ちの剥離の発生メカニズムに関する仮説を立案した。その仮説を基に、ワックス裏打ちの部分的な剥離が見られる油彩画の保存修復方針について考察を行い、博士論文にまとめた。 博士研究員となった令和5年度以降は、改めて、ワックス裏打ちの剥離を検知する精度の向上に着手した。保存修復の現場における正確な剥離の検知や、そこで得られるさまざまな事例にまつわる測定データの蓄積は、当該損傷を抱えた油彩画作品の保存修復方針を検討する上で重要な役割を持つ。これまで実施した調査の過程において、測定の簡便さや文化財分野との親和性の高さから、赤外線アクティブサーモグラフィー法の適用に可能性を見出だした。多種多様な描画層を持つ油彩画に対し、誰もが同手法を用いて裏打ち布の状態を正確に捉えることができるよう、測定・解析の指針となるガイドの提示を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ワックス裏打ちされた油彩画に見られる問題的事象のうち、裏打ち布の部分剥離に焦点を当て、そのような損傷を抱える油彩画の再修復手法の提示を目指してきた。 初年度である令和4年度は、赤外線アクティブサーモグラフィーおよびテラヘルツ波時間領域イメージング法を導入し、部分的に剥離したワックス裏打ちの状態把握を行った。その結果、ワックス裏打ちの部分剥離の発生には、裏打ちを行う作品裏面の平滑度の低さや、蜜蝋系接着剤の含浸不足が影響を与えていることが判明した。続いて、蜜蝋系接着剤の成分組成の分析と温度特性の解析、剥離強さの測定を行い、接着剤の経年変化が裏打ち布の剥離を促す可能性があることを明らかにした。これらの結果によって導かれたワックス裏打ちの部分剥離の発生要因を踏まえ、剥離が発生するメカニズムに関する仮説を立案、考察した。ワックス裏打ちの剥離が見られる油彩画作品を取り扱う際の判断材料を提供するとともに、その判断材料を得るための手法を示すことができた。 再修復処置に関する明確な具体策を提示するためには、より多くの事例に関する調査結果の蓄積が求められる。そこで、本研究の二年目にあたる令和5年度以降は、保存修復の現場において正確かつ簡便にワックス裏打ちの剥離を検知することができるよう、調査手法の見直しおよび最適化を図る。これまでの調査から、赤外線アクティブサーモグラフィー法を用いる際、描画層が解析画像上における裏打ち布の剥離の見え方に影響を与え得るため、解析に注意が必要であることが判明した。さまざまな描画材料の持つ赤外線反射・吸収(放射)率の違いに要因があると見立て、その因果関係を検証するための実験を行う。当該分野のシンポジウム参加や、専門家とのディスカッションを経て、実施する検証実験の計画を立案した。
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Strategy for Future Research Activity |
保存修復の現場で得たワックス裏打ちの剥離に関するデータの蓄積は、剥離が発生するメカニズムの解明やその修復処置を検討する上で、大きな役割を果たすことが期待される。そのため、現場において正確かつ簡便にワックス裏打ちの剥離を検知することができるよう、調査手法の見直しおよび最適化を図る。 第一に、赤外線アクティブサーモグラフィー法による自作の油彩画サンプルを用いた測定実験を行う。油絵具の種類や厚みなどを変えたいくつかの絵画を作成し、意図的な剥離を含むワックス裏打ちを施す。赤外線測定を専門とする研究者および研究機関の協力のもと、赤外線アクティブサーモグラフィー法を用いてこれらのサンプルを測定し、解析画像上に表れる剥離に違いがあるかを観察する。また、分光分析などを用いて絵画表面における赤外線反射・吸収(放射)率を測定し、赤外線アクティブサーモグラフィー法によって得られた解析画像と照らし合わせる。これらの検証実験の結果を踏まえ、赤外線アクティブサーモグラフィー法を用いて裏打ち布の剥離を検知するための、測定・解析の指針となるものを提示する。併せて、作品の測定許可が得られた場合に限られるが、可能な限り測定対象となる実例作品を増やし、ワックス裏打ちの部分剥離に関するデータの蓄積を図る。
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