Project/Area Number |
22KJ1329
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Project/Area Number (Other) |
22J20939 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 13020:Semiconductors, optical properties of condensed matter and atomic physics-related
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
貝沼 凌 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,500,000 (Direct Cost: ¥2,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2023: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2022: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 反強磁性 / マルチフェロイクス / ポンプ・プローブ測定 / マグノン / 非線形光学 |
Outline of Research at the Start |
物質中の電荷を制御する従来のエレクトロニクスや、スピン自由度も活用するスピントロニクスに次いで、2000年代にはスピン波の量子であるマグノンを利用するマグノニクスと呼ばれる分野が誕生した。当該分野の成長に伴い、多様な磁性体におけるマグノンの物理を解明することの重要性が高まっている。このような背景のもと、本研究は応用上もポテンシャルが高い反強磁性体におけるマグノンを効率的に励起・伝播させうるメカニズムの探求を目的としている。具体的には、光とマグノンの結合状態であるマグノン-ポラリトンや、コヒーレントな光学フォノンによって巨大な有効磁場が生じるフォノン磁気効果の実験的観測に挑む。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、反強磁性体におけるマグノンの伝播特性に、同一周波数帯に存在するフォトンやフォノンモードがどのように影響するかを探求することである。とくに、室温で反強磁性と強誘電性の両方を示すマルチフェロイック物質BiFeO3は、その特異な強的秩序のみならず、電場活性なマグノンに由来する非相反方向二色性の発現や電場によって制御可能なマグノントランジスタへの応用など、マグノンダイナミクスの研究においても注目されている。 2022年度は当初の計画に則り、反強磁性体BiFeO3単結晶においてフェムト秒パルスレーザーを用いたポンプ・プローブイメージング測定を行い、サブテラヘルツ領域における反強磁性マグノンと、2.4 THzのフォノン-ポラリトンの同時励起・検出を実現した。さらに、観測された時空間波形をフーリエ変換し、波数-周波数空間における励起強度分布の時間発展を可視化することで、反強磁性マグノンがサブテラヘルツ帯のフォトンと結合していることを明らかにした。この結合状態(マグノン-ポラリトン)は主要な2つのマグノンモードのうち片方(Ψモード)でのみ顕著に現れた。 より詳細なマグノン-フォトン結合メカニズムの解明に当たっては、観測に用いたBiFeO3上の領域における強誘電性・反強磁性ドメインのマイクロメートルスケールでの空間的構造の情報が必要であることが分かった。これに伴い、2022年度終盤からは同試料における反強磁性ドメインの可視化を目指し、2次高調波発生を用いた磁気イメージング測定の構築を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度では、計画通り、反強磁性体BiFeO3におけるマグノンとフォノン-ポラリトンの同時励起・検出に成功し、マグノンとテラヘルツ帯の電磁波の結合状態であるマグノン-ポラリトンの伝播を観測できた。この実験においては、マグノン-ポラリトンの群速度分散が極めて大きく、波束そのものの観測が困難であること、さらに試料のサイズの上限により波数分解能が限定されることの2重の課題が存在したが、励起領域とフーリエ変換に用いる領域を空間的に離し、短時間フーリエ変換を用いることで群速度の異なる成分を分けて観測するというアイデアによって解決し、マグノン-ポラリトンの情報の抽出に成功した。本研究成果は非従来型の測定手法でマグノン-ポラリトンを単一物質で観測した初の例であり、2023年度中の出版を予定している。 2023年度においては、当初の研究計画で並行して予定していた、BiFeO3におけるフォノン磁気効果の実証を目指す。フォノン磁気効果は、コヒーレントな光学フォノンの励起によって磁気秩序に巨大な有効磁場が働くという現象である。この目標に向け、より詳細な対称性に基づくデータ解析のためにはBiFeO3における反強磁性ドメインの空間分布の情報を優先的に取得する必要があると考えられるため、現在はスイスのETHZにて、二次高調波を用いた磁気イメージング測定を行っている。帰国後は、フォノン磁気効果の観測に向け、ダブルパルスポンプ・プローブ測定のシステムを構築し、実験を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度では、計画通り、反強磁性体BiFeO3におけるマグノンとフォノン-ポラリトンの同時励起・検出に成功し、マグノンとテラヘルツ帯の電磁波の結合状態であるマグノン-ポラリトンの伝播が観測できた。また、マグノンと電磁波の結合強度はおよそ10 GHz程度かそれ以下の大きさと見積もられた。また、マグノン-ポラリトンは群速度分散が極めて大きく、波束として安定して長距離伝播することはないことが判明した。従って、いわゆるマグノンコンピューティング等への応用に適しているとはいえない。一方で、共振器などの構造を用いずにマグノン-ポラリトンの観測を実現した例は他にほとんどなく、本研究は基礎科学的な面において知見を提供しうる。そこで、本研究は機能性の実現を目指していた当初の計画から修正し、より理論的にBiFeO3のマグノンダイナミクスの学理の構築に寄与することを目指す。 そこで、当初の計画では2023年度以降は、同じくBiFeO3においてダブルパルスポンプ・プローブ測定を実施し、コヒーレントフォノン励起によるフォノン磁気効果の実証を行う計画であったが、これに優先し、新たにBiFeO3単結晶における反強磁性ドメインの空間分布のイメージングを行うことにした。これにより、反強磁性オーダーパラメータと格子振動のダイナミクスを解析する際に、複数の反強磁性ドメインの存在を仮定して積算するという曖昧さのある方法を避け、詳細にダイナミクスを解析できるようになると期待できる。
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