Project/Area Number |
22KJ1781
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Project/Area Number (Other) |
22J01183 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01040:History of thought-related
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村田 陽 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | J. S. ミル / ジョージ・グロート / ジェレミー・ベンサム / ジェイムズ・ミル / 哲学的急進派 / デモクラシー / ギリシア史 / 受容史 / ウィリアム・ミトフォード |
Outline of Research at the Start |
本研究は、19世紀英国の「古代-近代論争」を分析枠組みとし、哲学的急進派(ジェレミー・ベンサム、ジェイムズ・ミル、ジョージ・グロート、J. S. ミル)の政治改革論を思想史研究の観点から検討する。これまでの研究において約18世紀までの同論争は着目されてきたが、本研究は古代と近代の比較を試みる知的風潮が19世紀に継続あるいは変化した可能性を模索する。この知的風潮に関わる哲学的急進派を対象とし、古代と近代をめぐる時代認識と政治改革論の関連を考察する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、哲学的急進派のジェレミー・ベンサム、ジェイムズ・ミル、ジョージ・グロート、J. S. ミルが、功利主義に基づいて民主的改革を支持した知的背景について、19世紀英国の「古代-近代論争」の観点から明らかにするものである。令和5年度は、前年度の研究で着目したミルとグロートによるアテナイの民主政論から導出された新たな二つの問いを主に分析した。すなわち、①グロートとミルによるギリシアの政治家とソフィスト解釈、②これら①の言説の知的背景を構成した19世紀英国の「古代―近代論争」である。 ①の問いでは、グロートの『ギリシア史』とソクラテス、プラトン、ソフィストに関する著作とそれらに対するミルの書評論文を主に検討した。②は、グロートやミルが直接的に言及した保守の政治家・歴史家のウィリアム・ミトフォードを中心に、哲学的急進派と対立する歴史観・政治観・哲学的立場を有する保守やホイッグの一次資料分析を進めた。 その結果、グロートとミルは、従来警戒されてきたデマゴーグ(煽動政治家)に対する解釈の刷新を試みることで、デモクラシーに討議の自由を与えようとしたことが示された。さらに、両者は「弁論術の教育を通じてデマゴーグを育成したソフィスト」という19世紀英国の一般論を批判的に理解した。具体的には、保守の歴史叙述に含まれるデマゴーグやソフィストに対する「偏見」を打破することが、グロートの目標となり、ミルもグロートに類似した問題意識を共有していた可能性が示された。 他方、ベンサムとジェイムズ・ミルについては、両者の政治改革論とギリシア評価に関わるテクストの分析を行い、グロートとJ. S. ミルとの比較を実施した。前者の二人が古代で実践されていた「直接的な民主政」を問題視し、代議制を善き統治であるとした一方、後者の二人は代議制支持者でありながらも、民主政に直接性を付与する意義を考慮していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、前年度の研究「グロートとミルのギリシア史解釈」を発展的に展開させるために、民主政という本研究課題の中核に関わる政治家や哲学者の分析に着手した。言い換えると、健全な民主政を運営するために求められる市民の資質を明らかにすることが前年度の研究課題であったのに対し、今年度は、市民に影響を与えたり、ときに市民を教育したりする立場にある政治家や教育者(哲学者)の問題を扱った。哲学的急進派の多くは、統治者と被統治者の双方の視点から政治改革論を議論しているが、今年度は、グロートとミルが、ギリシア史受容を介して統治者の育成をいかに理解していたのかが問われた。 政治家に関する分析では、ニキアスとクレオンをめぐる歴史叙述が哲学的急進派や保守にとって重要な争点であることが明らかになった。教育者に関しては、弁論術を教える立場にあったソフィストをいかに評価するかが、哲学的解釈のみならず、一つの政治的対立軸を構成することが示唆された。この点については、次年度に実施するソクラテスとソフィストの比較によりさらに明確化されるのではないかと期待できる。 他方、本研究の分析枠組みとなる「古代―近代論争」は、19世紀の保守に加えてホイッグのギリシア史・ローマ史解釈の研究を開始した。18世紀までの同論争との比較は次年度に実施する。 本年度はグロートとJ. S. ミルが主たる分析対象であったが、前年度からの継続テーマとしてベンサムとジェイムズ・ミルの民主政改革論とギリシア解釈に関わるテクスト読解を進めた。以上4名の比較は国際学会にて研究報告を実施したが、〈ベンサム、ジェイムズ・ミル〉と〈グロートとJ. S. ミル〉の間にある思想的な「断絶」の要因を十分に明確化できないという課題に直面した。 よって、次年度に引き継がれるべき問いがいくつか残されたことを考慮して、進捗状況は「概ね順調」であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度の研究では、令和4年度・5年度の研究成果を集約しながら、哲学的急進派の政治改革論が19世紀英国の「古代―近代論争」のなかでいかに位置づけられるのかを包括的に分析する。この包括性を明らかにするために、①哲学的急進派の古代ギリシア受容の鍵となるグロートとJ. S. ミルの古代哲学解釈、②19世紀英国における古典古代受容、③哲学的急進派の4名(ベンサム、ジェイムズ・ミル、グロート、J. S. ミル)の政治改革論とギリシア解釈の総合的比較を実施する。 ①については、前年度までの研究過程で読解を進めてきたグロートとJ. S. ミルによるソクラテス、プラトン、アリストテレス解釈を手がかりに、両者の比較を行う。功利主義者によるギリシア哲学の近代的再解釈が大きく問われることになるだろう。 ②では、前年度までの分析結果をまとめることで、18世紀後半から19世紀中頃までの英国において、古典古代の受容の形態が変化したことを明らかにしたい。つまり、世紀が移行する時期に、ローマ史ではなくギリシア史に着目が集まった諸要因を民主政の問題と重ね合わせて検討する。 前述した②の「移行期」に活動した思想家たちが哲学的急進派である。②の古代史受容の転換を説明する一つの要因に、彼らの政治改革論が位置付けられる可能性を③で取り組む。前年度の研究で残された課題――〈ベンサム、ジェイムズ・ミル〉と〈グロートとJ. S. ミル〉の間にある思想的な「断絶」――の解明も③で扱う。さらに、以上のグループ分けの内部で生じた差異として、ギリシアを好意的に解釈したグロートとJ. S. ミルの違いを検討する。この相違を分析するために、両者の奴隷制論と男女同権論を分析する。 以上三点の問いの検証を通じて、古代の思想を経由することで近代の政治改革を論じた思想家たちの知的営みを明らかにすることが、最終年度の見通しである。
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