Project/Area Number |
22KJ2754
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Project/Area Number (Other) |
22J00658 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 09010:Education-related
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
西郷 南海子 (2023) 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
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Research Fellow |
西郷 南海子 (2022) 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | 連邦美術計画 / アメリカ美術 / 壁画 / 万人のための美術 / パブリックアート / 公共芸術 / 民主主義 / デューイ / 経験としての芸術 |
Outline of Research at the Start |
申請者が博士論文で「生活としての芸術」の到達点として論じたのが、世界大恐慌下に実施された「連邦美術計画」である。同計画では失業中のアーティストたちを雇い、個人制作のみならず公共施設壁画などのパブリックアートや、一般市民を対象とする公開講座に従事させ、アメリカの美術水準を引き上げた(工藤2008)。他方で、同計画に関する先行研究は芸術政策の観点からのものが多く、同計画がそれぞれのコミュニティにおいて果たした教育的役割については調査や議論が十分に尽くされたとはいえない。したがって本研究では同計画を、地域ごとや作品ごとに分析し、どのような力学の中で作品が制作されたのか分析・総合する。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果は大きく分けて3つある。第1には、ニューヨーク・ハーレムの壁画現地調査を行ったことで、今年度の研究の柱である「壁画をめぐる相克」をより深く理解することができた。世界大恐慌時に行われた連邦美術計画では、収入のない画家を雇用し、ニューヨークだけでなく、全米各地で壁画制作に従事させた。このことにより、誰もがアクセス可能な公共空間に美術作品が現れ、アメリカ全土の美術水準を引き上げたと言われている。 ただし、実際には「何がどこに描かれるのか」という問題には、アーティストの表現欲求だけでなく、地元の有力者の意向なども関係し、複雑な権利関係をはらんでいた。公共空間に壁画が存在するという問題は、近年になっても別の形で持続していることが今年度の調査でわかった。 それは、1930年代の壁画が現在まで存続することで、「文化財」の扱いを受けることにより、従来の意図とは異なる形で(厳重に)保存されているという問題である。たとえば、ハーレム病院では、連邦美術計画の壁画に対して大規模な復元が行われたが、保存を優先するために壁画を一般の立ち入りのできない部屋に移動してしまった。そのため、「すべての人々にアクセス可能」という壁画の性質は失われている。 一方、同じくハーレムでもハーレム裁判所では、日本人画家・石垣栄太郎の壁画が、完成直後に取り壊しに遭っている。これも持ち運び可能な絵画なら起こらなかった事態であり、「壁画」という形態が招いたといえる。 第2に今年度は、連邦美術計画に従事した日本人画家により焦点を当てて、和歌山県立近代美術館、石垣栄太郎記念館、岡山大学国吉康雄記念講座などとの連携を促進した。筆者の知見が生きる場面が多くあり、今後も連携を強化する。第3に完成しつつある学術論文については適切な投稿先を見極めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要の第3に記したように、研究成果を学術論文として発表することが肝心であるが、今年度は適切な投稿先を見つけることができなかった。連邦美術計画の研究をどの領域の研究として行っていくのかは、重要な問題であり、論文の投稿先にも大きく影響する。今年度は「日本移民学会」での口頭発表も行い、これまでとは違った複眼的な視角からのコメントをいただいた。このように、自らの研究を美術史研究の枠内のみにとどめるのではなく、積極的に関連する学会に参加し、知見を磨いていきたい。 今後の課題としては、新年度は連邦美術計画の研究対象をアメリカ西海岸の壁画にも広げるとして、これまで中心的に研究してきたアメリカ東海岸(ニューヨーク)に加えて、どこまで対象を広げるのかという点がある。ニューヨークやサンフランシスコといった巨大都市の壁画とはまた違った性質が、中規模・小規模都市の壁画にはあるはずであり、それらを把握した研究はアメリカでも見当たらない。研究対象として大きすぎる一方で、連邦美術計画の全容を把握するには中規模・小規模都市の研究も欠かせないと考える。PDという限られた時間と予算の中で1カ所でも取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年春にはアメリカのジョン・デューイ学会、2024年春はアメリカ哲学促進学会(Society for the Advancement of American Philosophy: 51st Annual Meeting: March 28-30 2024, Boston)で口頭発表を行った。内容としては博士論文を進展させたものだったが、英語でのコミュニケーション力も生き、充実した発表・議論となった。 こうしてアメリカの学会で発表することで研鑽は積んできているので、美術系の学会に参加することも上述の課題を解決する方策になると考える。ただし、アメリカには多数の美術系学会が存在するため、あらかじめそちらの専門家に相談することが必要であろう。 連邦美術計画という、アメリカ美術の「独自性」そして「普遍性」を過不足なく議論できるようになるために、研究者のネットワークに参加する、あるいは構築することが重要である。現在つながりがあるのが、バード・カレッジ(ニューヨーク)で美術史とりわけ国吉康雄を専門にしているトム・ウルフ教授である。ウルフ教授のもとに短期間滞在するなど、この分野に関しては日本に専門家が不在であるという状況を乗り越えていきたい。
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