Project/Area Number |
22KJ2952
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Project/Area Number (Other) |
22J20924 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 03040:History of Europe and America-related
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷部 圭人 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,500,000 (Direct Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2023: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2022: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
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Keywords | フランス史 / 医療社会史 / メディア / 出版文化 / 論争 / 地方史 / 公衆 / 文化史 |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は、18世紀フランスの多種多様なメディアの分析を通じて、当時最も過熱した医学論争である種痘論争の文化的・社会的意義を再検討することにある。 具体的には、種痘が「発見」された1718年から牛痘がフランスで紹介される1798年までを対象に、医学書・定期刊行物等の出版メディアと社交空間で展開される演説・会話等の視聴覚メディアを分析する手法を取る。 さらに近年のメディア史研究の展開を踏まえ、種痘擁護論者/反対論者双方がメディアを介して訴えかけた「公衆」に注目し、論者・メディアとの三者間関係から種痘論争を捉えることで、理性的な学術論争の範疇に収まらない種痘論争のダイナミズムを解明したい。
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Outline of Annual Research Achievements |
二年次にあたる本年度は以下の三つの課題を並行して行い、それぞれ成果を得た。 第一に、種痘論争における「公衆」概念の変遷を分析し、種痘論争の参加者が読者/オーディエンスを意識するようになった歴史的経緯を解明した。それまで医学的・政治的権威を指す語彙であった公衆は、1754年のラ・コンダミーヌ演説で議論が拡大したことを契機に、より広い社会階層を包含するようになっていった。しかし、こうした公衆の拡大にも限界があり、必ずしも種痘実践が対象とする人々は全てが説得対象にならなかった。その結果、18世紀フランスに勃興した「公衆衛生」と「公共圏」が各々に対象とする公衆は当初、乖離した様相を呈したのである。本課題については計三件の学会発表を行っている。 第二に、ブザンソンを中心とするフランシュ=コンテ地方における種痘論争と種痘実践の地域的展開を分析した。第一課題の具体的なモデルケースと位置づけられる本課題では、種痘の集団接種に当時唯一成功した同地方にフォーカスし、地方アカデミーで繰り広げられた議論や外科医アクトンが起こした種痘事故をめぐる論争から、内科医ジロによる集団接種の成功に至るまでの歴史的経緯に着目した。その結果、当初の計画では限られた貴族・富裕層を説得し、接種を行う予定であったが、アクトンの事故等の影響もあり、農村部で集団接種を行う計画に変更されていったことが判明した。だがこの時、農民は説得対象たる公衆として認識されなかったことも同時に解明された。本課題については、二件の学会発表を行っており、来年度に雑誌論文を刊行する予定である。 第三に、種痘論争と密接に関連する「身体教育」をめぐる近世フランスの議論を分析した。種痘論争が隆盛する18世紀中葉に、医師が種痘を利用して教育の領域に参入したことを明らかにした。本課題については、既に一件の学会発表を行い、一件の雑誌論文を刊行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の研究活動も概ね当初の計画どおり、研究を遂行できた。 まず研究成果の公表については、学会発表四件と雑誌論文一件を今年度中に公表したため、順調に進んでいると言える。今年度は学内だけでなく、日本西洋史学会をはじめとする学外での活動でも充実した成果を上げることができた。とりわけ都市史系の学会・研究会で成果を公表し、交流を深めることができた点は特筆に値する。来年度は現在まで実施できていない国外での成果公表を第一目標に設定し、引き続き研究成果の公表に邁進していきたい。 史料調査に関しては、今年度十月から約二か月にわたり、フランスで現地調査を行った結果、ブザンソンでは種痘の集団接種に関する手稿史料を、パリでは1763年以降のパリ大学医学部における種痘論争に関する手稿史料を新たに入手した。これらの史料の発見は、修士論文までの研究成果を大幅に更新しうる画期的な成果であり、今年度の研究成果にも大いに寄与した。今後も未発見史料の読解を進め、研究成果に還元していく所存である。 また、現地調査を行う過程で、種痘論争に関する史料群がモンペリエ大学医学部に豊富に所蔵されていることが明らかになった。そのため、当初の予定を変更し、新たにモンペリエへの滞在を計画することになった。つまり調査地の変更も現地調査を経て得られた成果と言える。 いずれにせよ、昨年度に研究目標として掲げたブザンソンの集団接種をめぐる課題と身体教育の課題に関しては、既に成果を公表できており、充実した現地調査も行うことができた。これらの点では目標を十分に達成したと言えるが、唯一の課題として海外での研究成果の公表を行うことができなかった。しかし、フランス滞在を経て、医学史家マリア・ピア・ドナートら現地の研究者との交流を深め、成果を公表する雑誌や学会も具体化した。したがって、本研究計画は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は現地での史料調査をさらに進めると同時に、問題意識を明確にし、博士論文に向けた研究成果の総括を開始したい。 来秋より研究委託制度を利用し、および天然痘をはじめとする伝染病の表象史を専門的に研究するモンペリエ第三大学ルネサンス・古典・啓蒙期研究所(IRCL)のソフィー・ヴァッセ教授に研究指導を受けながら、モンペリエ大学医学部図書館やエロー県立アーカイヴで史料調査を行う予定である。具体的にはモンペリエ大学医学部の議事録や内部文書、現地の種痘医による同地域での接種記録等を渉猟し、パリ大学医学部と双璧を成すモンペリエ大学医学部の南フランスにおける医学の諮問機関としての役割を解明したい。また、この滞在期間を利用し、海外での研究発表やフランス語での論文執筆を積極的に行う所存である。 また、ここまでの研究活動で種痘論争関連史料の全体像が概ね把捉できたため、種痘論争を時系列に分析する研究を成果として公表する。既刊の初期(1723-1754)に関する論文に引き続き、ラ・コンダミーヌの演説からパリ高等法院の種痘禁止判決まで(1754-1763)、種痘禁止判決からルイ16世の種痘接種まで(1763-1774)をそれぞれ論文として発表する予定である。特に後者については、既に日本18世紀学会での学会発表を予定している。当該期は修士論文で既に扱っているものの、今年度の史料調査で得た新たな史料を踏まえ、研究成果を更新する必要がある。1774年から牛痘ワクチンが登場する1798年に関しても、発表などで積極的に成果公表を行いたい。それに加え、既に学会発表で公表した公衆をめぐる研究やフランシュ=コンテ地方の集団接種に関する研究も論文化することを目標とする。今年度は学会発表において充実していたため、来年度は論文での成果公表を充実させていきたい所存である。
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Report
(2 results)
Research Products
(10 results)