Research Abstract |
目的:本研究では,児童生徒がどのような体験を喪失体験として感じているのか,そして教師は児童生徒がどのような喪失の体験をしていると考えているのかを明らかにし,さらに兜童生徒の認識と教師の認識との差異を検討することを目的とする。 調査方法:質問紙調査法。対象者:大学生268名,教師324名(小103名,中109名,高112名)。 調査時期:大学生2010年11月~12月。教師2011年9月~12月。大学生への実施については,臨床心理を専門とする研究協力者が調査実施前に喪失についての質問があることを説明し,最近喪失体験をした者や思い出すことが辛い経験をしている者は回答しないようお願いをした。 調査内容:大学生は、小学校から高等学校までを振り返って「失った」と感じた出来事についてその内容を自由記述。教師は,児童生徒が学校生活の中で「失った」と感じるであろう出来事にはどのようなものがあると考えるか自由記述で回答を求めた。 結果と考察:自由記述の回答をKJ法によって分類した結果,大学生の回答〔小学生〕,〔中学生〕,〔高校生〕,教師の回答〔小学校教師〕,〔中学校教師〕,〔高等学校教師〕の全てで共通する分類項目は「死別体験」,「親の離婚・不和」,「ケガ・病気」,「いじめ・対人関係トラブル」,「大切な物の紛失・破損」,「部活での敗北」,「学習のつまずき・受験の失敗」,「卒業」,「友人の転校・退学」,「自身の転校」であった。小・中のみに共通であったのは「教師からの叱責」。中・高では「失恋」,「メンバーや委員の落選」であった。児童生徒にのみ見られた項目は,中・高に共通で「キャラを演じること」,「夢の実現が不可能と知った時」,「以前は感じられた感情になれなかった時」であった。教師のみに見られた項目は,小・中に共通で「虐待」,「クラス替え・教師の転任」,「嘘の露見」,中・高で「目標の達成」,「不登校」であった。児童生徒の経験と教師のとらえは多くが共通していた。大学生の回答にのみ分類された項目に注目すると,人や物などの実態のあるものの喪失が伴わず,自分の中での感情の動きによってのみで生じている出来事であるととらえることができる。 今後の課題:本研究では,何かを「失った」と感じた出来事についての調査を行ったが,その出来事によって具体的に何を失ったと感じたのかまで検討できていない。今後,この喪失感の構造についてより明らかにしていきたいと考える。また,本研究の結果からは,教師が児童生徒が喪失感を抱いているであろうと思われる体験の多くをとらえることができていると考えられた。しかし,茅野(2010)にあるように,その喪失体験が児童生徒にもたらす影響については十分に認識されてはいない。今後,喪失感がどのような問題につながる可能性がるのかの認識を高め,より適切なサポートの在り方を検討し,いかに実践していけるかが今後の課題である。
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