Research Abstract |
児童虐待が子どもの発達に与える影響は計り知れない。しかしすべての子どもが同じように悪影響を被るわけではない。トラウマ体験から回復する力あるいはトラウマ体験への抵抗力をレジリアンスと呼ぶが,被虐待経験がトラウマ反応へと結実するまでにどのような個人差がレジリアンスとして媒介しているのだろうか。 様々な主訴で児童相談所に訪れた子どもに心理テストを実施した。虐待を主訴とする虐待群と虐待以外の相談で訪れた対照群を設定した。個人差要因として性格特性を測定し,トラウマ反応との関連を分析した。 まず虐待を受けたか否かは主要な5つの性格特性のうち,外向性と協調性のみに影響しており,良識性と情緒安定性および知的好奇心とは関連しなかった。虐待を受けたことで,内向的になり,他者と協調しにくくなっていた。統計的因果の向きをパス解析で検証したところ,子どもの性格特性が虐待を惹き起こすのではなく,虐待によって性格特性が歪められるという方向であった。 次に性格特性と5つのトラウマ反応(不安,抑鬱,怒り,PTSD,解離)の関連をグラフィカルモデリングで探索した。1)外向的であれば怒り感情が強くなること,2)協調的であれば,怒り感情と解離症状は低下するが,抑鬱的になりPTSD症状が高まること,3)情緒が安定していれば抑鬱感と怒り感情が軽減されること,以上3点が示唆された。 以上の結果から,虐待というトラウマ体験はいくつかの性格特性を歪める可能性が示唆された。特に他者と良好な関係を築く上で重要な協調性を低下させてしまう点は,臨床的に被虐待児が対人関係でトラブルを抱えやすいことと合致している。ただし性格特性がトラウマ反応に及ぼす影響は症状ごとに異なり,協調性の低下ひとつを取り上げても好影響と悪影響が併存しており,レジリアンスとして機能しているのかについて明確な結論は得られなかった。
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