Research Abstract |
本研究は,音楽科における合唱指導を通して,歌詞や曲想などからテキストには示されていないイメージを想起したことを「自分の言葉」で語り,他者とともに表現を練り合うことから情操面からだけではなく,音楽表現を論理的に追求することを目的とした研究である。そのために,まず「個の思考サイクルの確立」を図った。その方策としては,テキストや音楽記号が何を知らしめようとしているのか思考させる場を保障することである。 熟考させるためには,指導者から子どもへ投げかける語彙力が豊かであることが問われる。 また思考場面で子どものイメージの広がりを求めるには,論理的思考を刺激できるだけの発問の質も具体的であることが問われることが判明した。次に「他者との言語による思考」であるが,大切なことはテキストや音楽記号,または「音楽から受容する曲想」をもとにした練り合い場面の充実である。多様な考えは言葉を介して交流される。その際自分の考えを書き留め,個の思考サイクルで熟考してから発言させることが有効であった。また,直接的に学級全体の中で発言をさせるのではなく,グループ活動を取り入れての思考も有効であった。個,グループで確立された考えは,全体の場へと提示され,思考の再構築へと導かれる。他者と個,グループの比較から主張の対比,批判,付加等を繰り返すことで解がクリアになることをねらいとした。自分の思考をもとに発言させるとともに他者との擦り合わせ,そして収束させるプロセスは,論理的思考のサイクルとして有効であった。ただし,音楽科としての思考のプロセスとして,他教科との違いは「音」を介することである。「音」を介するということは,脳の情動に刺激を与え,感性から解を導くケースもある。合唱を論理的思考力に重点をおきながら指導することは,技能指導先行の授業の偏重脱却から子ども主体の授業づくりへと舵をとることに為しえる結論を得ることができた研究であった。
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