Research Abstract |
【研究目的】これまで「よく考えるための考え方」については,国語科の直接の指導事項あるいは評価の観点とは考えられてこなかった。理解したことをもとに自分で考えそれを表現するためには,思考・判断・表現のうち思考から表現へ移る境目にある「判断」の方法や基準をどうするのかが重要であり,現状では国語科で扱う必要がある。本研究はその観点から「アブダクション」に着目し,その観点から生徒の判断力を伸ばす読解教材を開発することを目的とする。これにより,形式論理学的な真偽の判断になじまない,日常言語における蓋然性の籾断について,生徒や国語科学習指導の現状を改善することが期待できる。 【研究方法】本研究では,実際に行った授業を通して,アブダクションを取り上げた教材を使って判断の方法やそのあり方を問う学習の姿を示し,教材開発の方向や,判断を扱う国語科授業の課題を探ることとした。先行文献を調査した後,5月~6月に単元「別の見方を試してみると~一つの悩みにいろいろ回答~」(中2)を実践し,その課題を整理した上で,生徒に追加調査を実施し,その結果を論文にまとめた(『滋賀大国文』第50号に採録予定)。 【研究成果】実践とその一連の過程の中で,ごく短い例文ではあるがアブダクションの読解教材を計12篇収集できた。またこの教材を用いた判断の方法やそのあり方を,その内容よりも思考操作の形式的側面から取り上げて意識化させるというアプローチによる単元は,一定の成果を上げた。ただし,数少ない事例から蓋然性のある判断を下して効率よく発見を生み出すというアブダクションが内包する問題を生徒に深く意識づけるには,本単元では不十分な面もあった。開発教材を用いて読解指導を行う際には,"アブダクションは便利であり必要であるものの,事実C以外にも事例を豊富に集めて,どれもが仮説Hに結びつくのかを常に検証する態度も併せて求められる"という点が生徒に定着するよう指導の改善を図る必要がある。
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