Research Abstract |
本研究は岩手県及び宮城県内の縄文時代の遺跡地から出土したアスファルト遺物のバイオマーカー分析を行い、国内産原油のバイオマーカー特性と比較し、アスファルト遺物の産地を考察することを目的とした。 天然アスファルトは原油中の揮発成分が失われ、酸化作用や水和作用等の二次的な変質を受けた不揮発性の物質であり、その原油中には生物によってのみ合成可能な化合物、すなわち生物指標化合物(バイオマーカー)が存在している。代表的なものはステラン、トリテルパン、ジアステラン、芳香族ステラン等である。これらの成分は原油の起源有機物のタイプを示すものとされ、原油のタイプを区別する事が可能となっている。 今回の研究を進める直前の昨年3月11日の東日本大震災が発生し、本研究の実施が危ぶまれたが、岩手県の埋蔵文化財センターのご協力により、岩手県内の6遺跡から出土したアスファルト遺物試料の提供を受け、バイオマーカー分析を実施した。その遺跡名は岩手県北部から「寺久保遺跡」,「赤坂田II遺跡」,「浜岩泉I遺跡」,「繋V遺跡」,「金附遺跡」,「相ノ沢遺跡」の6遺跡である。 分析は高速液体クロマトグラム分析装置で分取した飽和炭化水素及び報告族炭化水素をガスクロマトグラフ質量分析計(アジィレントテクノロジー者製6890N型GC-5973N型MS)でバイオマーカー分析を実施した。 ステランの組成比から、6遺物のすべてが微生物分解の影響を著しく受けている事から、ステラン組成から起源有機物の推定は難しいと判断された。そして、比較的微生物分解の抵抗性が高いジアステラン組成比(13β,17α-20RジアステランのC27,C28,C29の組成比)から起源有機物を考察した。その結果、6遺物は秋田~新潟でみられる典型的な海成有機物起源原油に由来する事が明らかとなった。また、芳香族のトリアロマティックステロイド組成比についても検討したところ、ジアステラン組成比と同様に海成有機物起源原油から由来するアスファルト遺物である結果を得た。 以上
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