Research Abstract |
【意義・目的】 トキは,かつて日本全国に分布していたが,野生絶滅してしまった。このトキの野生復帰を目指した放鳥が,2008年から新潟県佐渡島で始まっている。野生復帰を成功させるためには,トキの生息環境を整備することが必要であるが,餌場整備が官民一体となって進められてきたのに対し,営巣環境については過去の知見に乏しく,整備も進んでいない。このためトキの営巣場所についての知見を集め,営巣環境の整備と創出につなげることが不可欠である。そこで本研究では,以下の2点を明らかした。 1)景観スケールにおいて,トキの営巣適地予測モデルを作成し,佐渡島内において重要な営巣地となりうる林を抽出した。 2)局所スケール(林内)において,トキが営巣した樹木と営巣していない樹木の比較を行うことで,トキが好む営巣木の特徴を明らかにした。 【方法】 佐渡島に再導入されたトキは,2010年春に5ペアが,再営巣を含め計7か所の林に営巣した。2011年春には,7ペアが計10か所の林に営巣した。なお,同一ペアによる再営巣では,新旧の営巣林が空間的に近い傾向が認められた。そこで疑似反復を避けるため,景観スケールでの解析では,各ペアが最初に営巣した林のみを解析の対象とした。解析にはプログラム(MaxEnt)を用い,営巣林周辺の景観要素(餌場,森林,人工物の面積等)を基に,佐渡島内での営巣適地を抽出した。 【結果】 1)営巣適地予測モデルによると,トキの営巣に適した林は,平野部,特に水田と林がモザイク状に混在する谷戸地形に多いことが明らかとなった。 2)林内におけるトキの営巣木選択には,樹種選好性は認められず,ギャップまたは林縁部近くの大径木,あるいは林冠からの突出木を選好していることが明らかとなった。これは,一般に大きな木は頑健で架巣しやすく,周囲の林冠が密閉していない木では巣への出入りもしやすいためと考えられた。
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