Research Abstract |
博物館にとって,カビなど生物被害防除は非常に重要である.カビは収蔵空間の温湿度を制御することで発生を抑制できるとされているが,比較的良好な湿度を維持していたにもかかわらず,カビが発生した事例があった.そこで温湿度以外のカビ発生リスクの簡便な評価法と,高湿でもカビの発生を抑制する因子について,ATP,表面含水率,総揮発性有機化合物(TVOC),落下菌・付着菌に着目し,高湿だがカビが発生しない収蔵庫(非カビ庫),適湿であるにもかかわらずカビが発生した収蔵庫(カビ庫)を比較した(ATPと表面含水率は壁面を測定).その結果,以下の知見を得た. ATPの値は,カビ庫(813単位,通年の平均値,以下同じ)が非カビ庫(176単位)より著しく大きかった.落下菌は,バラツキが大きくカビ庫と非カビ庫で大きな差は認められなかった.TVOC(市販のTVOCモニターによるトルエン換算値)は,カビ庫(259μg/m^3)は非カビ庫(1651μg/m^3)より著しく大きかった.表面含水率はカビ庫(7.4単位)より非カビ庫(8.0単位)の方が大きく,各収蔵庫の湿度を反映していることが示唆された.以上のことから,カビ発生リスクの評価に,壁面ATP値は有効であるが,落下菌,表面含水率の有効性は小さいと判断された.高湿であるにもかかわらずカビが発生しない理由の一つにVOCの成分が関与している可能性が示唆された.そのVOCの特定が今後の課題の一つである. またカビ庫において,実際にカビが発生した資料(カビ資料)と発生しなかった資料(非カビ資料)について,同様の調査を行ったところ,ATPと表面含水率はカビ資料の方が非カビ資料より大きかったが,付着菌とTVOCでは大きな差は認められなかった.このことから,同一空間であれば,ATPと表面含水率がカビ発生リスクの評価に活用できる可能性があると結論された.
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