仏像作例をめぐる再認識と理解形成の追跡-郷土史/在野研究/仏教考古学に注目して-
Project/Area Number |
23K00182
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Tezukayama University |
Principal Investigator |
杉崎 貴英 帝塚山大学, 文学部, 教授 (30460744)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2027: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2026: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 霊場 / 平安仏 / 小町塚経塚 / 石田茂作 / 川勝政太郎 / 法然上人行状絵図 / 縁起 / 奈良帝室博物館 / 仏教美術 / 文化財 / 学史 / 地域 / 刊行物 |
Outline of Research at the Start |
列島諸地域の仏像彫刻に関して、研究史の古層というべき段階の再認識状況や、研究という範疇にとどまらない理解形成の経緯は、把握や情報共有が及んでいない部分が多い。平成期の30年を経た世代交代や地域社会の変化等が作用して、今後それらの記録/記憶が継承されず、忘却/風化してゆく状況も懸念される。 本研究は、戦前の古社寺保存法の段階から、戦後の条例制定にともない自治体による文化財指定が活性化する昭和30~40年代までを主たる対象とし、地域に根ざした郷土史家の活動、各地の担い手が交流した在野研究、美術史学と未分化の状況にあった仏教考古学の営みに注目して追跡し、再認識・理解形成の過程を鮮明化する実践を行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度中は、年間を通じて各論的調査研究ないし開陳の好機を複数得た。以下に列記する。 (1)石川県立歴史博物館「いしかわの霊場」展に準備の過程から参画、図録の総説(「能登 霊場の古仏への視点」)中で、明泉寺(穴水町)の平安仏諸像を中心に再認識・理解形成の様相を記述した。 (2)承安4年(1174)銘の陶製光背を含む三重・小町塚経塚遺物に関し、18世紀に始まる再認識および出土瓦経等の分散・賞翫および調査研究史の追跡をおこない、年表兼文献目録をまとめた(『帝塚山大学文学部紀要』第45号)。これは砺波市埋蔵文化財センター保管「岩川コレクション」に含まれる仏教遺物(瓦経ほか泥塔・こけら経等)の調査依頼を契機とし、瓦経片の新知見を中心とする口頭発表の機会を得た(砺波散村地域研究所春季例会)。 (3)加越能地域に5躯が確認される見返り阿弥陀如来像に関し、石田茂作(1894~1977)が諸論著でとりあげた安居寺像(富山県指定文化財)を中心に、近世~近代の史料および地域の新聞資料を含めて再認識の過程を追跡、また金沢・天徳院像等の実査をふまえ相互比較と制作時期の再検討をおこない、地域の依頼による講演で結果の一部を口述した(砺波市指定文化財登録記念講演会)。 (4)京都・一念寺の阿弥陀如来坐像に関し、俊乗房重源の研究で汲まれてきた東大寺念仏堂(浄土堂)旧在説を検討した。史迹美術同攷会を主宰した川勝政太郎(1905~78)に始まる再認識・理解形成の過程を追跡する一方、『法然上人行状絵図』(四十八巻伝、国宝指定名称「法然上人絵伝」)の重源伝中にみえる「東大寺の念仏堂」の語を摂取した近世縁起である可能性に想到した(『日本文化史研究』第55号)。 (5)昭和8年(1933)の奈良帝室博物館「運慶を中心とする鎌倉彫刻展覧会」の実態把握と周辺状況の探索をおこない、中間発表的な内容を所属機関の公開講座で講述した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画段階では基礎的・総覧的作業を進める予定としていたが、年間を通じて各論的作業の好機に恵まれたため、それらを優先して進める結果となった。講述を含め、それらの成果公表まで至りえたことは、当初の見通し以上に順調だったといえる。 「研究実績の概要」に列記した各論的成果以外に、本研究に関連/循環する成果発表として次のものがあった。①富山県下の仏教美術に関し、彫刻作例を中心に従前の成果を総論し、あわせて近時に確認しえた鎌倉期作例である高岡市西福寺阿弥陀如来立像の概略を紹介した(越中史壇会特別研究発表会)。②神仏習合に関わる彫刻作例の再認識・理解形成史上の問題点について述べ、とくに福井・八坂神社の十一面女神像の性格に関し、同社の牛頭天王像との一具性の指摘を含めて再論した(『鷹陵史学』第49号)。③蔵王権現彫像の研究書誌集成および鎌倉~室町期における弘法大師彫像の存在状況の概観のもと、福井県下の作例の位置づけを述べた(『越前町織田文化歴史館研究紀要』第9集)。④法隆寺伝来の御物《聖徳太子二王子像》に基づく同寸に近い一版本を紹介し、近世における「唐本御影」の再認識過程のなかに位置づけた(『奈良学研究』第26号)。 また成果発表を今後に期する作業として、⑤富山在住の日本美術史・仏教考古学研究者であった堀井三友(美術研究所嘱託、1885~1942)の事績(『帝塚山大学考古学研究所研究報告』21、2019年に集成)について、新たに言述を確認した昭和6年開催「名寺巨刹重宝物拝観会」に関する資料収集、⑥堀井および彼と協同し戦後の文化財保護に尽力した長島勝正(1904~90)が評価し、以後に理解の更新をみずに経過している作例数件の実査、⑦兵庫・達身寺木彫仏群に関し、同寺で新たに確認された近代資料の調査への参画、などがあった。 以上を総合し、初年度の全体的進展状況としては概して順調であったと判断したい。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」の(5)に記した昭和8年(1933)の奈良帝室博物館「運慶を中心とする鎌倉彫刻展覧会」に関しては、同展およびそれに基づく同館の『鎌倉彫刻図録』等の刊行物が当期における再認識状況の一横断面を示す点で、本研究に関し恰好の題材といいうること、また開催前後の“発見史”をふくめた把握が、再認識・理解形成過程の鮮明化に有効な作業課題となることに想到した。これにも関し、当初計画した基礎的・総覧的調査研究のうち、『考古学雑誌』『歴史地理』『歴史と地理』『仏教美術』『東洋美術』『史迹と美術』『日出芸林』等の雑誌資料を対象に、彙報欄などを含めた記事の探索と、目録作成および重要記事のデータ化を進める。 各論的作業は、前年度に多くの契機を得た北陸地域に関するものを続行しつつ、他地域に関しても実践をはかる。現在のところ、在野研究者の活動・発信が盛んであった奈良県、国宝尊像石標(仮称、『日本文化史研究』第53号〔2022年〕に全国所在一覧稿を公刊済み)の建立が盛んであった滋賀県、昭和戦前期の県史編纂事業において石田茂作が「仏教遺物」につき関与・執筆した静岡県に好例を求めうると考えている。
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Report
(1 results)
Research Products
(12 results)