Project/Area Number |
23K01023
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 04030:Cultural anthropology and folklore-related
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
栗田 梨津子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (10632672)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 新自由主義 / 福祉制度 / 白人貧困層 / シティズンシップ / ケアの倫理 / 白人 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、オーストラリアの新自由主義的福祉政策において道徳的に「望ましくない」市民とされた生活困窮者の間で人種の違いを超えて形成される市民意識の実態を明らかにすることを主目的とする。研究期間を通して、白人の中から社会規範から逸脱した存在が創り出されるプロセスの解明、モラリティをめぐる対話や実践を通して新たに形成される市民意識の検討、そのような市民意識が多文化主義に内在する白人の優位性に対抗するメカニズムを理解するための理論の構築を行い、最終的に、多文化社会における集団間の分断を乗り越え、永続的な共生を可能にする市民社会のモデルを提示する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、オーストラリアの新自由主義的福祉制度の下で、道徳的欠陥があるとして周縁化された白人と非白人の困窮者の間で形成されるケアの倫理に基づくシティズンシップの実態を明らかにする。そして最終的に他者への共感や相互扶助を通して多文化社会における集団間の分断を乗り越え、永続的な共生を可能にする市民社会のモデルを提示することを目的としている。 1年目の今年度は、オーストラリアの新自由主義的福祉政策の下で白人貧困層が先住民や非白人系移民・難民と同様に「望ましくない」市民として一括されるプロセスの解明を試みた。まずは同国の政府刊行文書および福祉改革に関する先行研究の整理を通して、1980年代後半以降の福祉政策の変遷を確認した。同時に、福祉改革で導入された「相互義務」に関する政治家の演説やSNS上の福祉金受給者に関する言説の分析を通して、白人貧困層の表象のされ方について考察を行った。その結果、失業者や福祉金受給者に加え、「不利な立場に置かれた地域」に居住する白人住民は、メディアやSNS上でその行動様式や判断能力の異常性を強調され、主流社会に対し道徳的な脅威をもたらす存在として本質化されていたことが明らかになった。また、このような貧困がもたらすスティグマに対抗するために形成されたアデレードやシドニーの反貧困ネットワーク(市民団体)のホームページやSNSに掲載された、「相互義務」に対する個々の白人貧困層の見解をモラリティとの関係で考察し、その成果の一部を国外の学会で発表した。さらに、シドニーのホームレス支援団体の関係者にサービス内容や利用者に関する予備的な聞き取りを行い、今後同団体のサービス現場での調査を行う上での課題が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初予定していた通り、オーストラリアにおける新自由主義的福祉改革をめぐる政府資料や先行研究の整理およびメディアやSNSにおける福祉給付金受給者やホームレスに関する言説の分析を行った。また、白人の福祉給付金受給者に関する言説をこれまでの研究で明らかになった非白人系の福祉給付金受給者に関する言説と比較することで、スティグマの生成をめぐる共通の特徴がより明確になった。また、反貧困運動を行う市民グループのSNSの分析や関係者へのオンラインでのインタビューに加え、シドニーでの現地調査では、生活困窮者に無償のサービスを提供する市民グループの関係者やサービスの利用者に予備的な聞き取りを行った結果、次年度以降の現地調査を行う上での課題点が浮き彫りになった。そのため、「順調に進んでいる」と評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、主流社会における福祉給付金受給者をめぐる言説の動向を捉えた上で、アデレードおよびシドニーの反貧困に向けた自助グループの設立の背景や活動の実態を把握する。その上で、同グループに属する白人の福祉金受給者やホームレスを対象に、福祉事務所による生活の監視への個々の対応や中流白人との相互作用の経験が人々の市民意識に及ぼした影響について聞き取り調査を行う予定である。さらに、自助グループのメンバーによる相互扶助の実践の参与観察を通して、そこで生まれる帰属意識の諸相を明らかにしていく。
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