社会環境に応じた「不人気な規範」の生成・維持・変容過程の探究
Project/Area Number |
23K02832
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 10010:Social psychology-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村本 由紀子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (00303793)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 不人気な規範 / 暗黙の能力観 / 集団規範 / 多元的無知 / 共有信念 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、個々の成員が選好していない「不人気な規範(unpopular norm)」が生成され維持される過程について、以下の3方向から探究することを目的とする:(1)他者からの評判低下の予期に着目して、規範が維持される過程の定式化を試みる。(2)不人気な規範の維持をめぐる文化差と、その規定因たる社会環境要因を探る。(3)環境変化に直面した集団における規範の変容過程、および変容を阻む社会環境要因を探る。研究方法としては、実験室内にミニマルな規範を作り出して実施する小集団実験と、実社会に存在するさまざまな規範を題材として実施する社会調査の両面から、これらの問題にアプローチする。
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Outline of Annual Research Achievements |
第一に、社会規範及びそれに関わる他者からの評判の予期がCOVID-19の感染予防行動に及ぼす影響を検証した共同研究の成果が、Cognitive Science Societyの年次大会の発表論文として採択されるとともに、Proceedingsに掲載された。諸外国に比して感染被害の少ない日本で人々が感染予防行動を取る理由を検討した。感染リスクを高く認知する個人ほど予防行動を取る傾向が強いこと(リスク認知の主効果)、感染リスクを低く認知している個人であっても、予防行動を社会規範と捉え、怠った場合の他者からの評判低下を懸念している場合には、予防行動を取ること(リスク認知と評判低下懸念の交互作用)が確認された。 第二に、能力の可変性に関する暗黙の信念(暗黙理論)がヘルプシーキング行動に与える影響を検討した共同研究の成果も、Cognitive Science Societyの年次大会の発表論文として採択されるとともに、Proceedingsに掲載された。能力は固定的であると信じる実体理論的信念を持つ学習者ほど、他者から能力を低く評価されることを予測するがゆえに他者の助けを求める傾向が弱いと予測し、シナリオ実験によって検証した。予測に反して暗黙理論の主効果は確認されなかったが、学習者の暗黙理論と、助けを求める相手の暗黙理論に関する認知の交互作用が、ヘルプシーキングの意図を予測することが明らかになった。 第三に、成員の多くが支持しない「不人気な集団規範」が多元的無知によって維持される現象について、これまでに手がけてきた複数の共同研究プロジェクトの成果をまとめた共著書『多元的無知:不人気な規範の維持メカニズム』が東京大学出版会より刊行された。 その他、男性の育児休業取得を抑制する規範、少数派の発言を抑制する規範、職場の学閥に関わる規範など、不人気な集団規範を題材とした複数のウェブ調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度となった2023年度は、関連するテーマで以前から進めてきた共同研究プロジェクトの成果を書籍や国際学会Proceedingsへの論文掲載などのかたちで発表することができたことに加えて、現実の社会的場面における不人気な規範を題材とした複数のウェブ調査を実施し、一定の成果を挙げることができた。具体的には、①男性従業員の育休取得抑制規範から逸脱する成員の地位が他の成員の追随行動に及ぼす影響、②他者からの能力評価に関する予測が少数派の意見表明意図に与える影響、③居住地流動性・関係流動性が自己開示や援助行動を行う他者への認知に与える影響、④不平等規範の解消によってそれまで不利益を被ってきた個人が新たな不平等を認知する可能性、などのトピックスに関わる初期的な検討である。これらの調査から得られた知見をもとに、次年度以降、仮説を精緻化してより体系的な実証研究を実施していく考えであり、2023年度はその第一歩として、有意義な研究活動を実施することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に実施したウェブ調査の結果を踏まえて、発展的追試研究を計画・実施し、成果発表を目指す。一例として、不人気な集団規範からの逸脱を促進する要因としての他者の地位の効果を検討した研究では、男性の育休取得を抑制する職場規範を題材とした前年度調査の結果、率先して逸脱行動を取る(育休を取得する)者の地位の高低によって、当該の逸脱行動が他の成員に伝播する程度が異なることが示された。具体的には、高地位の男性が規範から逸脱した場合の方が、低地位者の場合と比して、周囲の従業員に逸脱行動が伝播しやすいことが示された。この結果は、新参の集団成員が職場規範を学ぶ際には高地位者よりも低地位者を参照しやすいことを示した先行研究の知見とは異なる結果である。規範を学習して遵守行動を取ろうとする場合と、規範からの逸脱を試みる場合とで、他者からの評判に関する期待が異なり、それに応じて異なる他者を参照しようとする可能性がある。今後の研究では、前年度に得られた結果の成果を学会の年次大会等で発表するとともに、両者を包括的に理解するための発展的研究を計画し、体系的な検証を行う予定である。他の研究成果についても同様の流れで推進することを考えている。
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Report
(1 results)
Research Products
(12 results)