Project/Area Number |
23K03739
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 20010:Mechanics and mechatronics-related
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
門脇 廉 長野工業高等専門学校, 機械ロボティクス系, 准教授 (10735872)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | 異常診断 / 非破壊検査 / 超音波 / 濡れ / 信号処理 |
Outline of Research at the Start |
超音波を用いた非破壊検査には,対象物の表面直下にある微小な異常部からの反射波が表面からの反射波に埋もれて検出できない問題がある.本研究では超音波探触子の先端に取り付ける樹脂製遅延材の形状を工夫し,遅延材と対象物との接触面に液体で濡れた領域と乾いた領域をつくる.二つの領域からの反射波は逆位相で相殺するため,表面からの反射波を除去して欠陥を検出できる.本研究ではこの手法を実現するために濡れた接触面での超音波伝搬特性の解明も行う.
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,濡れた接触面の超音波伝搬特性を解明することで接触面近傍からの反射波の振幅と位相をコントロールし,新たな超音波探傷システムを開発する.従来の超音波探傷では超音波探触子に樹脂製の遅延材を接続し,その先端を液体の接触媒質で濡らすことで対象物へ効率よく超音波を伝えてきた.しかし,粗さをもつ表面が濡れた場合の超音波伝搬特性は十分明らかになっていない.その一方で,研究代表者らの過去の研究では,遅延材と対象物との接触の有無によって反射波の位相が逆になり,従来探傷を阻害していた表面からの反射波を低減できる可能性が示されている.したがって,濡れた接触面の超音波伝搬特性を解明し適切にコントロールすることで,表面近傍の異常も診断可能な探傷システムを作れる可能性がある. 令和5年度の研究では,アクリル樹脂製遅延材の表面に濡れた部位と濡れていない部位を作成し,対象物に押し当てることで遅延材先端から2種類の反射波を得ることに成功した.これらの反射波は大きな位相差をもつため,20 %程度が相殺された.また,濡れのコントロールのために塗布したシリコーン系撥水剤を均一な層状構造とみなして反射波の数値シミュレーションを実施し,実験時の撥水剤の厚さを約6 μmと同定した. 以上の成果は,表面からの反射波の振幅や位相をコントロールする新たな探傷システムの第一歩である.しかし,現状では濡れているか濡れていないかの2条件しか作成できていないことや,撥水剤の厚さの影響で位相のコントロールに制限が生じていること,表面粗さの影響を考慮できていないことなどの課題がある.令和6年度は単独の遅延材を水中に浸漬させ,微小な気泡をトラップさせるなどして濡れの状態を種々作成するほか,表面粗さにも複数の条件を設定して濡れた接触面の超音波伝搬特性を解明する.また,濡れをコントロールする方法について撥水剤の塗布以外の方法も検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度はアクリル樹脂製遅延材の表面の一部にシリコーン系撥水剤を塗布し,部分的に接触媒質で濡れていない領域を作成した.この濡れていない領域と濡れている領域の面積比を,研究代表者らの先行研究で求めた最適値にしてアルミ合金製対象物の表面からの反射波を測定したところ,上記2領域からの反射波が干渉,相殺し,振幅が減少した.これにより従来の超音波探傷を妨げている表面からの反射波を低減した.しかし,その低減の程度は,完全に相殺できた場合の約20 %であり,2領域からの反射波の位相が理想とする180度からやや離れていることが推測された. 上記の実験を数値シミュレーションで検証したところ,均一な層状構造とした撥水剤の厚さは約6 μmであると同定された.また,この撥水剤の厚さや濡れている部分の接触媒質の厚さによって反射波の経路長が伸び,反射波の位相が理想から乖離していることが示唆された. 以上の成果は提案する新たな超音波探傷システムの基礎として重要ではあるものの,濡れた接触面の超音波伝搬特性を解明するには不十分である.具体的には,濡れに関して遅延材が完全に濡れているかまったく濡れていないかの2条件,表面粗さに関して1条件,接触時の押し付け力に関して1条件しか設定されていない.これらについては,より多くの条件を設定して実験を行う必要がある.また,そのためには「不完全な濡れ」と呼べる状態を作成することが必要であり,その方法を編み出さなくてはならない.接触面間の狭い隙間では,撥水剤の撥水作用よりも接触媒質の浸潤作用の方が大きい傾向もみられ,現在採用しているシリコーン樹脂系撥水剤の塗布が最適なのかどうかも含めて検討する余地がある. これらの点から,実験面,理論面から取り組むべき点が多いとみて,進捗状況を「やや遅れている」とした.令和6年度はこれらの検討項目を個々に扱い,本研究の基礎を固める予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
遅延材の表面粗さ,および濡れの状態の2変数に対して超音波伝搬特性を調べるため,遅延材の片面に種々の表面粗さを与える.これについてはサンドペーパー等で加工した表面を本校所有のレーザー顕微鏡で観察し,複数の表面粗さを実現する予定である.また,種々の表面粗さをもつ遅延材を作成したのち,これと超音波探触子を接続したうえで,上述の粗い表面を接触媒質に浸漬する.この際,粗い表面に接触媒質が完全に浸潤すれば完全な濡れとなり,気泡がトラップされるなどして浸潤が不十分であれば不完全な濡れとなる.以上のように設定した各条件で遅延材表面からの反射波を測定し,表面粗さや濡れが反射波の振幅,周波数,位相に与える影響を調べる. また,遅延材と接触面の間で不完全な濡れを実現するための方法を実験的に模索する.具体的には,撥水剤の塗布量を種々与える,撥水剤とは異なる薬品を塗布する,紙や繊維等の個体を挟むなどの方法を検討する.仮に現状より良い方法を開発できない場合でも,シリコーン系撥水剤の塗布面積のコントロールにより巨視的には不完全な濡れを実現できる予定である. 以上の知見が得られれば,典型的な対象物において,遅延材-対象物間の濡れや接触の程度をある程度自由に変えられるようになる.そのため,提案する超音波探傷システムの妥当性を検証する実験も開始できると期待される. 理論的には,対象物と遅延材の間の密着の程度は真実接触面積の大小,または接触剛性の大小としてモデル化することができる.各モデルを採用した場合の反射波の特性を推定して実験結果と比較し,各モデルと濡れの関係について考察する. 以上の実験的検討と理論的検討を総合し,本研究の目的である振幅と位相のコントロールに向けて,表面粗さ,濡れ,密着の程度と振幅,位相との関係をまとめる.
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