脂肪族アミンによる金属防食皮膜のラビリンス型秩序構造の形成機構解明と機能制御
Project/Area Number |
23K04680
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 32010:Fundamental physical chemistry-related
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
吉田 健 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (80549171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 直樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (50621760)
水口 仁志 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30333991)
村井 啓一郎 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (60335784)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 超臨界水 / 皮膜形成アミン / 核磁気共鳴分光法 / 表面分析 / 電気化学測定 |
Outline of Research at the Start |
太陽光発電の大きな割合での導入は,調整力に優れる火力発電とのベストミックスを確保しながら進めることが,最優先されるべき電力の安定供給に不可欠である。火力プラントの頻繁な出力調整は水-蒸気系統の腐食を加速させるため,新規な腐食対策が喫緊に必要である。研究代表者らは,新規防食剤として高い関心を集める保護皮膜形成型の脂肪族アミンの研究から,皮膜の構造が従来広く推測されてきた単層膜ではなく,アミンが秩序積層しラビリンス(迷路)状に入り組んだ構造を持つことを見出した。この新発見を糸口に,本研究では皮膜の多種多様な構造の決定因子の解明,構造と防食効果との相関の解明,皮膜構造デザインの指針構築,を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
太陽光発電の大量導入に伴う火力発電プラントの頻繁な出力調整は、水-蒸気系統の腐食を加速させるため、新規な腐食対策が喫緊の課題である。本研究では、新規防食剤として高い関心を集める保護皮膜形成型の脂肪族アミン、特にオレイルプロパンジアミン(OLDA)に着目し、その皮膜の構造と形成機構を解明することを目的とした。OLDAは、炭素数が20程度の長鎖脂肪族アミンであり、金属への吸着性や水への懸濁性が高いことから、脂肪族アミンの中でも最も有望な候補として注目されている。しかし、OLDA皮膜の形成過程や構造については、未だ十分に解明されていない。2023年度の研究では、皮膜の形成と構造の解析精度を高める目的に、表面分析のための銅板の前処理として、電解研磨とイオンミリングを導入し、銅板表面の粗さと有機不純物を制御した上で、OLDAの吸着実験を行った。定量NMRと顕微RA-IRによりOLDAの吸着量と銅板表面に沿った吸着量分布を評価した。その結果、OLDAは銅板上に不均一に吸着しており、局所的に1平方nmあたり1000 分子を超えるような厚く積層した領域が存在することが明らかになった。さらに、接触角測定により、これらの高密度領域が撥水性に重要な役割を果たしていることが示唆された。XPS分析からは、OLDA皮膜が銅板表面での水酸化銅の形成を抑制していることが確認された。平面方向の不均一構造が温度に依存することも明らかになった。 これらの知見は、銅板上でのOLDAの秩序積層構造に形成過程の解明の糸口となりうることを強く示唆している。さらには、OLDAの防食効果への寄与も示唆する。本研究の成果は、脂肪族アミンによる革新的な腐食防止技術の学理構築と産業利用の基盤形成に大きく貢献するものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、OLDAの金属表面への吸着挙動と皮膜形成機構の解明に向けて、様々な表面分析手法を駆使した多角的なアプローチを進めてきた。まず、吸着試験の前処理として、電解研磨とイオンミリングの効果を調べた。AFM測定により、電解研磨が銅板表面の粗さを改善することを確認し、XPS測定により、イオンミリングが有機不純物を効果的に除去することを明らかにした。これらの前処理により、OLDA皮膜形成の初期状態をより精確に制御することが可能になった。次に、30-150 ℃の温度範囲でOLDAの吸着試験を行い、接触角測定により皮膜の撥水性を評価した。その結果、OLDAが銅板表面の撥水性を大幅に向上させることが確認された。さらに、顕微RA-IR測定により、OLDAの銅板への吸着が不均一であり、局所的に1平方nmあたり1000 分子を超える厚く積層した領域が存在することが明らかになった。これらの積層領域が、皮膜の優れた撥水性に重要な役割を果たしていると考えられる。XPS分析からは、OLDA皮膜が銅板表面での水酸化銅の形成を抑制していることが示された。これは、OLDAが銅板表面に強固に吸着し、水分子の侵入を防ぐバリア層として機能していることを示唆している。再現性の確認には特に注意を払い、1つの条件につき3回以上の皮膜形成試験を独立に行ったうえで、1つの試験片に対して接触角測定を10回以上、顕微IR測定を5回以上実施し、平均値と分散を定量評価した。 以上の結果は、温度に依存すると考えられる水溶液中のOLDAの溶存状態が銅板上でOLDAが形成する皮膜の構造に強く影響することを意味する。再現性の確認や、反応条件の影響の系統的な検討により、腐食抑制に有効な皮膜構造のデザイン指針の構築に向けて着実に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、OLDAの金属表面への吸着挙動と皮膜形成への温度や溶液条件の影響について新たな知見を得ることができた。しかし、実用化に向けては、さらに幅広い条件下での検討が必要である。特に、皮膜形成の速度論と平衡に関する定量的なデータの蓄積が重要である。OLDAをはじめとする各種脂肪族アミン分子の構造の違いが、皮膜の積層構造の形成にどのように影響するかを系統的に引き続き解明する必要がある。アミンの炭素鎖長、アミノ基の数や位置、不飽和結合の有無などの分子構造パラメータと、皮膜の密度、厚さ、撥水性などの物性との相関を明らかにすることで、最適な分子設計指針の構築を目指す。 さらに、実用上は昨年度までに検討した濃度(約1 mM)よりも2桁程度低い濃度(数ppm)で脂肪族アミンが用いられることが一般的である。したがって、実用条件に近づけるためには、より低濃度での皮膜形成機構の解明が不可欠である。低濃度条件下では、皮膜形成の速度論や平衡状態が高濃度条件下とは大きく異なる可能性があり、さらには種々の測定の感度・精度を確保することの難易度が上がるため、段階を踏んだ検討が必要である。低濃度条件下では、皮膜の均一性や被覆率が低下する懸念もあるため、皮膜の防食性能への影響についても注意深く評価する必要がある。 加えて、本研究で得られた知見を、他の金属材料や環境条件に適用することで、脂肪族アミンによる腐食防止技術の適用範囲を拡大することも重要な課題である。例えば、ステンレス鋼や銅合金など、火力発電プラントで広く使用されている材料への適用を検討する。また、pHや圧力などの環境条件が皮膜形成に及ぼす影響についても系統的な検討が必要である。多くの条件でのデータを効率的に得ることを目的に、in-situ測定が可能な表面分析手法の導入についても検討する。
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Report
(1 results)
Research Products
(16 results)