終戦後の統制された「動き」を愉しむ娯楽文化:占領期野球映画の考察
Project/Area Number |
23K12062
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 01070:Theory of art practice-related
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
大谷 晋平 神戸大学, 国際文化学研究科, 学術研究員 (50911484)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
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Keywords | 占領期 / 野球映画 / 視聴覚文化 / 占領期の映画 / 占領期のスポーツ政策 / スポーツ映画研究 / 占領期の視聴覚文化 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、占領期におけるスポーツ映画研究を通じて、スポーツと映画が一体となってGHQがどのように占領政策を推し進めたのかを考察するものである。ここで特に焦点を当てるのは、スポーツと映画は両者共に近代が生み出した「動き」を見て愉しむ文化であることだ。しかし、これまではそれぞれ別々の分野で研究されてきており、また、日本の映画研究においてスポーツと映画を結びつけて体系的に研究するものはほとんど無かった。本研究ではこの点を鑑みて、占領期におけるスポーツ映画とイデオロギー啓蒙の連関を明らかにし、「動き」とその意味づけがいかに近代の人間社会を構築したかを考えることに開いていく。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は主に二つの研究実績が得られた。一つは、これまでの日本で劇場公開された日本スポーツ映画の作品リスト作成であり、もう一つは占領期における野球映画が「科学」に基づく民主主義を啓蒙する装置としてGHQによって位置付けられていた点を明らかにしたことである。詳細は以下の通りである。 報告者は昨年度より山根貞夫編『日本映画大事典』(三星堂、2021)や映画雑誌、映画会社HPなどを参照しながら日本のスポーツ映画作品リストを作成した。こちらはこれから多様に展開することが期待されるスポーツ映画の基礎的な資料となる貴重なものであり、報告者自身による日本のスポーツ映画の全容を明らかにしていくためにも必要な基礎的な作業であった。こちらは、大谷晋平「日本のスポーツ映画作品リスト:スポーツと映画における「動き」の体系的な研究に向けて」、神戸大学国史文化学研究推進インステイテュート『年報Promis』第2号、99-122頁、2023.として公開されている。 研究実績のもう一点は、今年度のワシントンDCの国立公文書館での占領期関連資料の調査を元にしたものである。報告者は占領期の映画をはじめとするメディアで民主主義・自由主義啓蒙を担ったCIEのウィークリーレポートなどを調査し、CIEと日本の映画製作者のシナリオや演出に関するやりとりを、多くの作品に渡って参照した。占領期の野球映画を対象とする本研究に関わる所では、『エノケンのホームラン王』などおよそ10作品で、武士道的な野球から「科学」に基づくものへと変わるイメージを表現するための映像イメージとなっていたことを明らかにした。その成果はTPBS研究会「A Study of Japanese Baseball Films during the Occupation Era」、高雄大学(台湾)、2024/1/27で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は占領期におけるプロ野球運営と日本映画の関係を見つつ、当時のスポーツ映画がいかにして民主主義・自由主義イデオロギーの表象として機能させられていたのかを考察することで、映画とイデオロギーの連関を明らかにする研究である。この点に向けて、2023年度は、そもそも全容が明らかになっていない日本のスポーツ映画の作品リストを作成するという基礎的な作業を完成させて公表できた点が、今後のスポーツ映画研究に向けても大きな成果の一つである。これが達成できた点は、2年目以降の研究に向けて良い準備となった。 また、ワシントンDCで調査を行い、CIE文書を網羅的に見て具体的にGHQ主導のスポーツ映画の展開の全体像を掴むことができた点も今後に向けて大きな成果である。具体的には、CIEが映画のシナリオだけでなく細かな演出にまで「示唆」を表していたことで、ストーリーや作中人物のセリフだけでなく、映像のイメージそのものに民主主義・自由主義的なイメージを持たせることを意識していた点が明らかになった。さらに、スポーツに特化したニュース映画を作らせていたことも明らかになり、スポーツ(の映像)をイデオロギー装置として機能させる明確な意思があったことを実証的に明らかにできた。 すなわち、それらイデオロギーのイメージが実際にどのような映像に落とし込まれていたのかという具体的な作品分析のレヴェルにまで踏み込んでいく準備ができたため、概ね順調に研究が進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、日本で劇場公開された日本スポーツ映画作品リストの作成と、ワシントンDCでの調査を元にGHQがスポーツニュース映画の制作や劇映画への介入によって民主主義・自由主義イデオロギーの装置としてスポーツ映画を機能させようとしていた点を明らかにした。具体的には、スポーツのプレイを自由で溌剌としたものというイメージに加えて、精神的鍛錬というよりも「科学」に基づいてプレイの精度を上げる合理的な思考に付随するイメージとして映画を利用しようとしていたことが明らかになった。 今年度はその成果を元に、『エノケンのホームラン王』をはじめとする約10作品のシナリオ、映像、セリフ、キャラクター像などの総合的な分析に取り組んで、実際にどのような表象が民主主義・自由主義イデオロギーの表れであったのかを分析していく。 さらに、史的なアプローチとしては、これまで明らかになっていない占領期のプロ野球球団と映画会社の関係について明らかにしていく。なぜこれが必要かと言うと、日本映画が黄金期を迎える1950年代において、松竹、東映、大映の三社がプロ野球球団運営に乗り出していくからである。すなわち占領期は映画と野球が経済的な面でも結びつていく重要な時代の直前期なのである。1960年代には野球映像の表彰は圧倒的にTVが担うことになるが、それまでは動く野球選手を見るには現地に行くか映画を見るしかなかったので、動くスポーツ選手を映画会社が独占していることは大きな意味を持っていたと考えられる。では、そうした状況は映画会社の野球球団運営とにどういった関係があり、またそこで生み出されるスポーツや身体の表象がどういった意味を持っていたのだろうか。これを明らかにしていくための重要な準備として、今年度は映画会社と野球球団の関係を読み解いて整理していく。
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Report
(1 results)
Research Products
(2 results)