Project/Area Number |
23K17519
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 3:History, archaeology, museology, and related fields
|
Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
阿部 善也 東京電機大学, 工学研究科, 助教 (90635864)
|
Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥6,370,000 (Direct Cost: ¥4,900,000、Indirect Cost: ¥1,470,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,820,000 (Direct Cost: ¥1,400,000、Indirect Cost: ¥420,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
|
Keywords | 古代ガラス / ハイパースペクトルイメージング / 蛍光X線分析 / オンサイト分析 / 起源推定 |
Outline of Research at the Start |
紫外-可視-近赤外線域で対象物の反射光と蛍光を波長別に撮影・可視化する「ハイパースペクトルイメージング(HSI)」を用いて,遺跡・古墳から出土した古代のガラス製品(主にガラス玉)の起源(生産地)を瞬時に判別する革新的な手法の開発を目指す。HSI撮影装置(HSIカメラ)を蛍光X線分析装置などの可搬型分析装置と共に国内外の研究施設へと持ち込み,各地の遺跡・古墳で出土したガラス製品を非破壊かつその場(オンサイト)で分析する。含有元素やその化学状態に応じた紫外-可視-近赤外光に対する吸収・反射・蛍光特性の違いを検証し,HSIにより古代ガラス製品の生産地の違いを「可視化」することに挑戦する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,紫外-可視-近赤外線域で対象物の反射光と蛍光を波長別に撮影・可視化する「ハイパースペクトルイメージング(HSI)」を用いて,遺跡・古墳から出土した古代のガラス製品(主にガラス玉)の起源(生産地)を瞬時に判別する革新的な手法の開発を目指す。古代日本に伝来したガラス製品は一次生産地域の異なるいくつかの組成タイプに分類でき,さらに組成タイプと着色剤の種類や含有量の間には対応関係が見られる場合が多い。よって,HSIカメラを用いて古代ガラス製品の着色剤を識別・特性化できれば,その一次生産地を間接的に推定することが可能になると期待される。 2023年度は,まず実験室系において合成ガラスおよび歴史的なガラス標本を対象とした検証実験を行った。その結果,着色剤としてCuまたはCoを含む青色ガラスにおいて,着色剤の種類や含有量に応じた可視・赤外光の吸収・反射特性の違いをHSIカメラで識別できることが明らかになった。そこで,ひたちなか市埋蔵文化財調査センターの協力を得て,可搬型の蛍光X線分析装置とHSIカメラを持ち込み,同センター収蔵された青色ガラス玉の非破壊オンサイト分析を実施した。まず蛍光X線分析によって,古代日本に流通した4種類の組成タイプのアルカリケイ酸塩ガラス(カリガラス,ナトロンガラス,植物灰ガラス,アルミナソーダ石灰ガラス)が存在し,組成タイプに応じてCuおよびCoの含有量に差が見られることを確認した。その上でHSIカメラを用いて各組成タイプの青色ガラス玉を各2点,計8点をまとめて撮影し,Cu2+イオンおよびCo2+イオンによる光吸収・反射波長を識別できることを明らかにした。以上より,HSIカメラにより古代の青色ガラス玉の簡易的な起源推定が可能であることが実証された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回対象としたCuとCoで着色された青色ガラスの小玉は,弥生時代から古墳時代にかけての日本列島で大量かつ広域的に見つかっている。その特性化に対するHSIカメラの有効性について,実際の出土資料を用いた実証に成功したという点は,本研究の進捗を評価する上で非常に大きい。本研究で実施した検証実験および調査では,HSIカメラに加えて,フィルターおよび照射光の切替によって特定の波長範囲の光吸収・反射を撮影するマルチスペクトルカメラを併用している。マルチスペクトルカメラにより,Cu2+イオンまたはCo2+イオンに特徴的な波長を選択的に撮影すれば,HSIカメラと同様の判別を実施できると想定したためである。その結果,着色剤として機能するCuやCoの含有量が同程度,あるいは大きさや形状が類似している試料であればマルチスペクトルカメラの利用が有効であったが,これらの個体差が大きい試料をまとめて撮影した場合には,青色着色剤の種類や含有量を的確に評価できないことがわかった。HSIカメラでは,特定の波長の信号の大小を評価するだけでなく,任意の2波長間における信号強度の傾きなどを用いた評価も可能であり,着色剤の含有量や大きさ・形状によるばらつきを抑えて,着色剤の違いを的確に判断することができる。画素ごとにスペクトルデータを測定・保存するHSIカメラならではの解析法と言えよう。 一方,当初の予定では2023年度の段階でHSIカメラのアップグレードを実施する予定であったが,アップグレードを適用する項目の選定が間に合わず,翌年度に持ち越しとした。また,HSIカメラと共に本研究の遂行に不可欠な可搬型蛍光X線分析装置について,X線管球の老朽化に伴う異常が検出されたため,新品を購入した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度に得られた成果について,実験室系で再現ガラス試料を用いた追加の検証実験を行った上で,文化財保存修復学会第46回大会において発表を行う予定である。 HSIカメラの性能アップグレードについて,実際の出土資料に対する調査の結果から,画素数の増加が適切であると判断された。2024年度の早い段階でアップグレードを適用する。また,撮影時に照射する白色光源について,現状ではハロゲンランプを使用しているが,輻射熱による問題を考慮し,HSI用の新型白色LEDの導入も検討する。 現時点では,事前の蛍光X線分析によって組成的特徴(着色剤,組成タイプ)が明らかになっているガラス製品についてHSIを実施しているが,今後は先にHSIカメラを用いた「スクリーニング」を行い,特徴的な光吸収・反射特性が認められたものを抽出して蛍光X線分析を行う,という形に切り替えていく。100点を超えるような膨大な量のガラス製品がまとまって出土している国内の古墳や遺跡を対象として,HSIカメラを利用した起源推定の実例を増やしていく。また,現時点では有用性が認められたのは青色のガラス製品のみであるが,古代の日本列島には青色以外にも様々な色のガラス製品が流入している。非破壊の蛍光X線分析による元素情報のみでは的確に着色要因を識別できないケースもあり,HSIによる簡易迅速な分析の可能性について引き続き検証していく。
|