Project/Area Number |
23KJ0538
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 02060:Linguistics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯野 真之介 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,800,000 (Direct Cost: ¥1,800,000)
Fiscal Year 2024: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2023: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 文理解 / 作業記憶 / 組合せ範疇文法 / 読み時間 / コーパス / 自己ペース読文 / 視線計測 |
Outline of Research at the Start |
ヒトが言語文を理解する際には、離れた位置にある要素の間の関係を作業記憶を活用しながら組み立てる必要がある。本研究は特に動詞と項(主語や目的語など)の関係に注目し、動詞が現れる前(例えば「学生が論文を」まで入力された状態)でどのような構造が構築されているか、どのような条件で処理が困難になるののか、といった点を明らかにする。先行研究で別々に探求されがちだった、詳細な文法構造とリアルタイムの構造構築過程とを統合したモデルを構築し、実験で検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究で最も大きな成果は、文理解のモデルを構築してそれをコーパスの読み時間で検証し、認知科学のトップジャーナルの1つであるCognition誌に掲載したことである。本年度の研究ではまず、様々な文法理論のリサーチを行い、リアルタイムの文理解に親和的な理論として組合せ範疇文法を採用することを決定した。同文法に基づいて、統語構造がどのように構築されるか、そしてそれがいつどの程度の作業記憶の負荷をもたらすかについてのモデルを構想した。組合せ範疇文法は形式的に厳密な文法であるため、計算機上での実装が容易で、様々な構文が混在するコーパスでの検証に適していることから、コーパスでの検証を優先することとし、公開されている英語コーパスに付された読み時間で統計的な検証を行った。その結果、新しいモデルが、作業記憶の負荷に関する既存のモデルよりも読み時間を的確に予測することが明らかになった。また、このモデルが英語・日本語といった類型的に異なる言語における既存の読文実験の結果を統一的に説明できることも確認した。コーパスの読み時間の予測、類型的に異なる言語の統一的説明は、いずれも文理解における作業記憶の負荷の研究で長年の課題であり、これらに解決の道筋をつけたことが評価され、短期間で論文掲載にこぎつけた。
また、このモデルのもうひとつの検証として、日本語の自己ペース読文実験・視線計測実験も進行中である。自己ペース読文についてはある程度のデータが集まり、これまで知られていなかった現象(主語と目的語の間の距離によって生じる作業記憶の負荷)を明らかにできたため、文理解の主要な国際会議に投稿し、採択されている(24年度発表予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
十分な具体性のある文理解モデルを構築し、既存の実験結果の説明とコーパスの読み時間の予測を達成したこと、そしてジャーナルでの出版を行ったことは、当初は2年間で実現する計画だった事項であり、予定以上の成果であった。国際的な認知度の高いジャーナルへの掲載からも明らかなように、これは目標を低く設定していたわけではなく、 心理言語学で着目されることの少なかった組合せ範疇文法の採用によりブレイクスルーを達成したこと、および統計やプログラミングのスキルの向上により妥当なコーパス分析が行えるようになったことによるものである。
当初予定していた実験については一部変更を行った。感染症に関する社会情勢の変化を踏まえ、ウェブ上の自己ペース読文実験を補完するものとして対面での視線計測実験を行うこととした。自己ペース読文と同じ刺激文を使うが、画面に文全体を一度に表示し、視線の動きをカメラで測ることで読み戻りなど多様な指標が得られるもので、近年の心理言語学では双方を相補的に用いることが多い。同一の参加者には実施できないため、視線計測実験が可能な参加者はそちらに割り振ることにしており、自己ペース読文はその分当初予定より遅いペースでの実施となっているが、40人のデータが集まった時点で国際会議に投稿し、採択されている(24年度発表予定)。また、感覚交差プライミング実験については、研究計画提出後22年度中に実施した同手法の実験で、動詞のタイプと項の活性化に関係があることを示す一定の成果が得られ、23年度に国際学会での発表も行えたことから、23年度中に新規の実験実施はしなかった。その分のエフォートをモデルの構築とコーパスの分析に割いた。
全体として、本年度の成果自体は質的に予定以上のものであったと自負するが、実験計画の変更を行ったことを考慮し、進捗状況の区分は指定の通りとした。
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Strategy for Future Research Activity |
組合せ範疇文法を用いたモデルの構築およびそのコーパスでの検証が大きな成功を見たことから、当初からのリサーチクエスチョン(詳細な文法構造とリアルタイムの構造構築過程についての知見を統合した文理解モデルの構築によって、人間にとって理解しやすい文の特性を明らかにすること)を維持しつつ、検証手法について適宜見直しを行い、当初計画以上の国際的インパクトを引き続き出すことを目指す。
実験では、23年度より実施している自己ペース読文実験および視線計測実験を引き続き実施し、ジャーナルへの投稿を目指す。視線計測は対面実施で時間がかかるため、実験のスピードアップを目指し、申請者が自ら実験を実施するのみならず、協力者を得て実験を実施してもらう。提案しているモデルが予測する、これまで知られていなかった現象(主語と目的語の間の距離によって生じる作業記憶の負荷)の存在が両実験で示せれば、主要なジャーナルへの投稿が十分可能である。また、コーパスでの検証については、英語コーパスでの検証が成功したことから、つづいて日本語コーパスでの検証を行うこととし、23年度末より既に分析を始めており、肯定的な結果を得ている(国内学会に採択済み)。今後、統計手法とモデルの洗練を行い、ジャーナルへの投稿を目指す。
さらに、文理解モデルの構築の過程で、モデルに使用している組合せ範疇文法自体の設計について、文理解についての知見とより整合するような提案ができることに気づき、現在心理言語学の代表的な国際学会に投稿中である。採択されれば秋の学会で発表し、そこでの議論を踏まえてさらに研究を深める。採択されなかった場合もコメントを踏まえて議論を修正し再投稿する。
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