Project/Area Number |
23KJ1373
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 80010:Area studies-related
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 千尋 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,000,000 (Direct Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | ネパール / ジェンダー / シングルマザー / 市民権 / 無国籍 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、ネパールにおけるシングルマザーの社会的排除を事例として、ジェンダーに基づく暴力の諸相を明らかにする試みである。ネパールでは婚前/婚外交渉により妊娠した女性の多くが、家族の名誉(ijjat)を傷付ける存在であるとして、家族や出身村から排除される。さらに、シングルマザーの子は父親を特定できない場合、パスポートの発行や選挙権の行使、銀行口座の開設のために必要な市民権証を取得できない。本研究では出身村の人や市民権の発行を拒否する役人に対するインタビューを実施し、シングルマザーの排除のポリティクスを解明するとともに、彼女たちの生存戦略や社会運動についても調査し、現状の可変性に光を当てていく。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は主にネパールにおける現地調査と国内外における研究成果の発表を行った。 今年度の現地調査の主たる目的は、現代ネパール社会においてシングルマザーとその子が経験する社会的排除の諸相を明らかにすることである。その中でもとりわけ、憲法において父母両系血統主義が定められて9年が経ってもなお、母親の名前に基づいて市民権証を発行することができず、「事実上の無国籍」状態になっているシングルマザーの子の事例を収集した。主たる調査地域はネパールのカトマンズ市、ラリトプル市および中西部のカピルヴァストゥ郡、バルディア郡である。主にシングルマザーや弁護士、行政庁舎の職員などを対象としたインタビューを行った。 調査の結果、母の名前から市民権証を取得する時にのみ求められる地方行政事務所および警察による身辺調査の際に、多くの差別行為が行われていることが明らかになった。また、地方での調査においては、夫の失踪や家庭内暴力を経験したシングルマザーたち自身が、もとより市民権証を所持しておらず、離婚調停をしたり裁判をしたりすることができないという事例も耳にした。こうしたケースの背景には、嫁いできた女性による相続権の行使や家庭内暴力の告発を恐れ、市民権証の取得を制限するという夫の家族の考えが関係しているようだ。こうした調査から、ネパールにおける「事実上の無国籍」状態は、ジェンダー化されたものであることが明らかになった。 2023年度は上述のような現地調査だけではなく、研究成果の発表にも精力的に取り組んだ。4月にはKINDOWS主催のセミナーにおいて、その後は6月の日本女性学会、9月の日本南アジア学会において個人発表を行った。10月にはアメリカのウィスコンシン大学マディソン校にて開催された51st Annual Conference on South Asiaにおいても研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先述のように、今年度は研究成果の発表と現地調査の両方を実施することができたため、おおむね当初の計画通り研究活動を行うことができているといえるだろう。現地調査では、シングルマザーおよびその子、権利活動家、政治家、弁護士、地方行政事務所の職員など様々な関係者を対象としたインタビューを行い、次回の現地調査に向けた人脈を築くことができた。インタビューに関しては、シングルマザーや権利活動家、「事実上の無国籍」の問題に取り組む人権派の弁護士だけではなく、政治家や保守派の弁護士、地方行政事務所の職員など、一見シングルマザーの社会的排除を維持する側とも捉えられる人々からも話を聞いたことが特徴的である。 研究成果の発表に関して、3つの国内学会およびアメリカで開催された国際学会において口頭発表をすることができたものの、学術論文の執筆および発表は今年度中に達成できなかったため、次年度への課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き現地調査および研究成果の発表を精力的に行っていく予定である。現地調査に関して、来年度はネパール中西部のカピルヴァストゥ郡における長期調査を行い、インドと国境を接する地域における事例の収集に専念する。とりわけ、インド側と姻戚関係をもつマデシの女性や国境地帯のシングルマザーを対象とした調査を行うことで、中央政府の政策や法改正、首都カトマンズの権利活動家、弁護士の言説からはこぼれ落ちてしまうナラティブを収集したいと考えている。 研究成果の発信について、2024年5月に開催されるKINDOWS(環インド洋世界研究プロジェクト京大拠点)主催のセミナー「ヒマーラヤ地域研究の最前線」において発表する予定である。また、6月には2024年度日本女性学会大会における口頭発表を行うことが決定している。2023年度はアメリカで開催された国際学会にて口頭発表を行ったが、2024年度はネパール国内における研究成果の発信にも精力的に取り組んでいきたいと考えている。11月にはネパールで開催される国際学会における発表および同研究機関が発行している国際学術誌(Studies in Nepali History and Society)への論文の投稿も予定している。
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