Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
強い相互作用を記述する基礎理論であるQCDは漸近自由性と呼ばれる性質をもつため、解析的な計算は極めて限られた範囲でしか行えない。そのため唯一の系統的な計算手段である数値シミュレーションがQCDに関する研究の主流となっている。しかし超高密度系におけるQCDの研究では「符号問題」と呼ばれる問題が原因で数値シミュレーションが満足に行えない。2000年前後から、国内・国外の研究者らによって数値シミュレーション方法がいくつか提案されてきたが、どれも低密度領域に限って有効であり、高密度領域では依然として符号問題を避けることができる計算方法は確立していない。本研究では符号問題を避ける方法の確立を目指し、低密度領域で収束が保証されている多項式展開の方法を用いて高密度QCDの計算を行った。シミュレーションではウィルソンクォークを用い、比較的安価でCPUでの計算よりも高速な演算が行えるグラフィックカードを搭載した計算機を複数台用意して、多パラメータシミュレーションを行った。比較的重いクォーク質量でのシミュレーション結果からこの方法が非常に有効であることを示し、さらに高密度シミュレーションで一次相転移の兆候をとらえた。本研究で用いた多項式展開の体積依存性の性質は符号問題のそれよりもずっと扱いやすくなることが示されており、今後より大きな系でのシミュレーションが可能となり、従来の研究では到達できなかった高密度領域でのシミュレーションが可能となると考えられる。