たたら吹製鉄は、砂鉄を原料とし、箱形製鉄炉で製錬を行う我が国の在来製鉄法である。その技術をめぐっては、朝鮮半島の砂鉄製錬技術が導入されたとする見方と、朝鮮半島から伝わった鉱石製錬技術を基にして、豊富な砂鉄を効率的に製錬できるよう我が国で考案されたものとする見方がある。本研究の目的は、砂鉄製錬の系譜を明らかにするために、朝鮮半島における砂鉄製錬技術の実態を解明することである。 韓国において現在判明している砂鉄製錬炉は、すべて箱形炉で、朝鮮時代のものである。箱形炉は、製鉄炉に鞴から風を送るため送風孔を多数設けるところに特色があり、慶尚北道龍里遺跡、慶尚南道冶爐遺跡・新安遺跡、全羅南道金谷洞遺跡、全羅北道隠谷遺跡、忠清北道中田里遺跡で確認されている。本研究では、これらの炉壁など製鉄関連資料の実測図作成や写真撮影を行い、その特色を検討した。 調査の結果、韓国の箱形炉は、炉壁に複数の送風孔を設け、砂鉄製錬をするという点では、日本の箱形炉と共通性があるが、むしろ三国時代以来の主流である鉱石製錬用の円形炉から派生した製鉄技術である可能性が高まった。韓国において初期の箱形炉である金谷洞遺跡では、送風孔付きの炉壁とともに、円形炉に特徴的な鉄滓を確認することができ、箱形炉と円形炉の中間的な様相を示している。また、その発展段階である隠谷遺跡の箱形炉は、平面形は長方形に近いが、炉底が作業面より低い半地下式の構造をもち、炉内の鉄塊を取り出した後、残った炉壁を補修して再使用するなどの特色をもつ。これは、日本の箱形炉が作業面より上に造られる地上式で、炉をすべて取り壊して鉄塊を取り出すのとは対照的である。韓国の箱形炉は、砂鉄を効率的に製錬するために、本来鉱石製錬炉であった円形炉に改良を加えることで独自に発展・成立したものと考えられる。
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