Research Abstract |
算数・数学教育におけるジグソー学習法の授業実践を長期的に行った。その際, デザイン研究の手法を用いて, 算数・数学教育におけるジグソー学習法の教材の構成原理, 授業実践の構成原理を抽出を試みた。デザイン原則は授業において必ず実現したい子どもの姿を指しており, 2種の構成原理は必ず適用しなければならない条件ではなく, デザイン検討の際の規範的指針であり, 教材内容や子どもの実態に応じて柔軟に活用していくべきものとした。そのためこれらの構成原理は, デザイン研究の進展にともなって常に修正される特性をもつものである。 デザイン原則は, 「数学的な問題について, 他者と対話しながら, それぞれ独自の考え方を話し手になったり聞き手になったりして深める学習活動を繰り返し, 数学的な概念を統合的, 発展的に深める姿」としてデザイン研究を進めた。教材の構成原理は, 「現実の事象から数学化する過程を盛り込むこと」, 「ジグソーグループでの対話において統合的な対話の視点を設定すること」, 「単元末に, 単元で学んだ知識を活用する活動を設定すること」, 「解決方法が多様なエキスパート課題を設定すること」の4種を抽出した。授業実践の構成原理は, 「エキスパートグループでの活動を保証するためのゆとりのある時間を設定すること」, 「他者の考えを参考にしてよかったと感じられる経験を積むこと」, 「異なった表現様式の考えの子ども同士でジグソーグループを構成すること」の3種を抽出した。 算数・数学教育における数学学習と言語の関係についての認識論的考察においては, Ernest, P. (1998)とSfard, A. (2008)の理論的基盤の共通性から, Wittgensteinの言語ゲームの理論, Vygotskyの外化と内化の理論の重要性を指摘した。Wittgensteinの言語ゲームの理論の立場に立てば, 知識は使用することによってその用法や内包と外延を明確にすると考えられ, Vygotskyの外化と内化の理論の立場に立てば, 知識の外化によってその適用が修正されて内化され, 知識を自覚的に随意的に再び外化できるようになると解釈できる。したがってジグソー学習法の本質である「すべての学習者の対話の保障」は, 学習者の理解を深めるための1つの要素となると認識論的に述べられることを指摘した。
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