トリアゾール系抗真菌薬であるボリコナゾール(VRCZ)は臨床用量において非線形性を示す薬物であることに加え、VRCZの主代謝酵素であるチトクロムP450 (CYP) 2C19は遺伝子多型性を示すことから、厳密な投与量設計の為にはCYP2C19遺伝子多型を考慮したベイズ推定が必要と考えられる。しかし、我が国において日常診療の範囲で遺伝子解析を実施することは現時点では困難であり、適切な代替マーカーの利用が望ましい。そこで、本研究では血清中のVRCZと主代謝物であるVRCZ-Nオキシド(VNO)の濃度比(VRCZ/VNO比)をCYP2C19遺伝子型の代替マーカーとして利用し、その値に応じた母集団パラメーターを用いてベイズ推定による体内動態解析を実施することで、投与量設計の精度が向上するか否かを検証することを目的とした。 本研究ではまず、薬物動態解析ソフトNappを利用して、非線形動態を考慮したVRCZの薬物動態モデルの構築を試みた。ここで、モデル構築に用いたVmaxやKm等のパラメーターは海外データであったため、当院にてVRCZのTDMを行った患者のVRCZ濃度実測値をモデルに代入し、パラメーターの最適化を試みた。並行して、当院において医学的な必要性からVRCZの投与を受けた患者のTDM残検体中のVNO濃度をLC-MS/MSにより測定し、VRCZのTDM結果と合わせてVRCZ/VNO比の算出を行った。 モデルに用いるパラメーターの最適化に当初の予測より多くの時間を要し、平成25年度中には、VRCZ/VNO比を変動パラメーターとした薬物動態解析の実施には至らなかったが、モデル構築自体は概ね完了することができた。また、VRCZ/VNO比は約200検体について測定済みであることから、今後は早急に薬物動態解析を進め、VRCZ/VNO比を用いたベイズ推定の臨床的有用性を検証する予定である。
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