背景 : 抗うつ薬の服薬忍容性に関与する遺伝子多型として幾つかの遺伝子多型が報告されてきた。しかし、多くは抗うつ薬の単剤処方例から得られた結果であり、薬剤が併用されることの多い臨床への応用には難しい側面がある。また、服薬忍容性の基準は、副作用発現率や服薬自己中断の頻度などが頻用されているが、患者の服薬への姿勢や、作用や副作用に関する自覚といった服薬アドヒアランスに着目した研究は殆ど実施されていなかった。 目的 : 本研究の目的は、抗うつ薬の単剤処方例及び併用例の患者を対象とし、抗うつ薬処方量のイミプラミン換算値と、副作用発現率、服薬アドヒアランスのスコア、及び抗うつ薬の服薬忍容性に関与する可能性のある遺伝子多型(5-HTT LPR、5-HT_<1A> C1019G、5-HT_<2A>-1438 G>A)との関連を評価した。 方法 : 本研究は、秋田大学医学部倫理委員会の承認を得た後、秋田大学医学部附属病院精神科病棟において、抗うつ薬が処方された入院患者95名を対象に行った。薬物調整終了後、患者が服薬自己管理を開始した時点で、入院後に経験した副作用を副作用評価シートにより、また服薬アドヒアランスをDAI-10 (drug attitude inventory-10)により評価した。遺伝子多型はPCR-RFLP法により決定した。 結果 : 5-HT_<2A>受容体の遺伝子多型である-1438G>AのGアレル保有者では、副作用発現頻度がAA群の63.5%と比べて76.1%と有意に高く(p=0.0265)、イミプラミン換算値と副作用の発現頻度との間に有意な相関(p=0.0019)が認められた。また、同アレル保有者では、DAI-10スコアがAA群の4.97±0.93に比べて2.96±0.88と有意に低値であった(p=0.035)。なお、各アレル保有者間の年齢、性別、抗うつ薬の種類やその他併用薬間で有意な違いは認められなかった。 考察 : 5-HT_<2A>-1438G>A多型のGアレル保有者では抗うつ薬の副作用が発現しやすく、結果として服薬ノンアドヒアランスに陥りやすいと推察される。本研究により、遺伝子多型に基づき抗うつ薬の服薬アドヒアランスの評価や予測に応用できる可能性が示唆された。
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