Research Abstract |
【目的】中枢移行性のアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEIs, captopril他)は記憶保持増強効果を有することが報告されているが、その作用機序は未だ解明されていない。本研究では、カプトプリル投与ラットにおいて発現変化した脳内ペプチドの記憶保持機構への関与を明らかにすることを目的とする。 【方法】Sprague-Dawleyラット(雄, 体重250g, 5週齢, n=5)に中枢移行性ACEIとしてcaptopril (5,10,20mg/kg)、非中枢移行性ACEIとしてimidapril (1,4mg/kg)およびARBとしてlosartan (10,40mg/kg)を投与した。記憶保持能はモーリス水迷路法にて解析した。まず約4日間標的の位置を学習させた後、記憶保持能について5日間測定した。次に測定を終了したラット脳からペプチド分画を常法にて調整した。抽出液は限外濾過(<10,000)を行い機器分析試料とした。ペプチドの解析は強陰イオン交換樹脂および弱陽イオン交換樹脂装着Protein Chip Arrayを使用しSELDI Protein Chip System (PCS4000)にて行った。各試料はpH4.5および8.5の緩衝液で溶解し、各Arrayに付した。 【結果・考察】記憶保持能の解析では、captopril投与群が濃度依存的に記憶保持能の改善効果が認められた。一方、imidaprilおよびlosartan投与群ではいずれの投与量においてもcontrol群と同様の記憶保持能を示し改善効果は認められなかった。また、captopril投与群で発現上昇した物質のほとんどは、pH4.5での条件下で陰イオンおよび陽イオン交換樹脂双方で確認され、その検出数は陰イオン交換樹脂に多く検出された。検出された質量数の範囲は1,000~3,000がほとんどであり、ACEが分解する脳内ペプチド(LH-RH, substance P, β-neoendorphin, neuromedin B, LVV-hemorphin-7, amyloid β-protein)やinsulin-regulated aminopeptidase (IRAP)の基質と考えられているvasopressinとは異なる値を示した。脳内にはACEやIRAP以外にも活性中心にZn^<2+>を有するメタロプロテアーゼが存在することから、今回得られた多くの質量数は、キレート形成能を有するcaptoprilにより阻害されたメタロプロテアーゼの内在性基質の可能性がある。 今回検討した内容は、中枢移行性ACEIによる記憶保持能改善効果の機序を解明する上で重要と考えられ、今後これらの物質の構造解析を進める予定である。
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