抗がん剤治療では骨髄抑制のため、重篤な感染症の発症や輸血、または積極的な治療を中止せねばならないこともある。骨髄抑制の強度は個人差が極めて大きく、治療開始にあたって患者個々のリスクを考慮した対応が望まれる。安全性向上のためには、抗がん剤の体内動態をも考慮したきめ細かい安全性情報の蓄積が不可欠である。そこで本研究では、がん化学療法における骨髄抑制の危険因子を調査し、体内動態特性との関連を見出すことを目的とした。 近年、臨床試験が進んでいるアムルビシンは、タンパク結合率が96%と高く、かつ活性代謝物が血球中に5倍以上高濃度に分布する、極めて特徴ある抗がん剤である。骨髄抑制は強度だが、その他の副作用は軽微である。そこで、アムルビシンの投与を受けたがん患者66名を対象に、重篤な好中球減少症の危険因子を後方視的に調査した。本研究は、倫理審査委員会の承認を得て実施した。グレード3以上の重篤な好中球減少を発現した患者は38名(62%)で、これらの患者ではG-CSF投与、輸血、抗がん剤減量の頻度が有意に高かった。さらに、多変量ロジスティック回帰分析の結果、重篤な好中球減少症と有意な関連を示した因子は、治療開始時点でのヘマトクリット値が低いこと[オッズ比(OR) 5%低下ごとに2.0]、女性(OR=6.7)、アムルビシン投与量が体表面積あたり40㎎以上(OR=6.0)であった。ヘマトクリット値は血液中に占める血球の容積を示す指標である。アムルビシンは血球移行性が高い薬剤であることから、ヘマトクリット値が低値の患者では本剤の分布容積が少なくなり、血漿中により高濃度にアムルビシンが遊離すると考えられる。その結果として、好中球がより強く障害されると考えられた。 本研究の成果は、抗がん剤の薬物動態における特徴と、抗がん剤治療を受ける患者個々の特性を考慮した、より安全性の高い抗がん剤治療につながるものである。
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