【目的】近年、免疫抑制剤の進歩により、移植後患者の長期予後が改善された。しかし、その一方で、患者の高齢化による悪性腫瘍対策の重要性が高まっている。移植後患者に最も多く発症する悪性腫瘍はリンパ腫で、発症率は、一般集団の約7倍に達している。リンパ腫の原因として、リンパ球の機能に重要な役割を担っているA20遺伝子の機能異常が明らかにされている。A20遺伝子は、リンパ球におけるNF-κBの活性化で発現が誘導され、NF-κBの活性を阻害する。免疫抑制剤のタクロリムスもNF-κBの活性を阻害することから、移植後患者では、ネガティブ・フィードバック機構によるA20遺伝子の抑制が示唆される。そこで、本研究では、A20遺伝子の発現抑制が拒絶反応、悪性腫瘍発症に及ぼす影響を検討した。 【方法】健常人から採取したEDTA血液を対象とした。まず、血漿タクロリムス濃度の影響を検討するために、対象血液のヘマトクリット(Ht)値を実験的に0%から50%に調製した。次に、タクロリムスを添加し、全血濃度をOng/mLから80ng/mLに調製した後、イオノマイシンとホルボール12-ミリステート13一アセテートを添加し、37度で24時間培養した。培養後、リンパ球からmRNAを抽出し、real-time逆転写PCR法でIL-2とA20遺伝子のmRNA量を定量した。 【結果・考察】IL-2のmRNA量を定量した結果、全血タクロリムス濃度が同じでも、Ht値が低い(血漿濃度が高い)血液検体ほどmRNA量が少なく、免疫反応が効率良く抑制されていることが明らかになった。一方、A20遺伝子のmRNA量に差はなかったことから、タクロリムスのNF-κB活性阻害がA20遺伝子の発現に及ぼす影響は小さいと考えられた。本研究は、短期間(24時間)における影響のみを検討したが、今後、リンパ腫が発症する長期間での検討が必要である。
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