【目的】マウスの胚移植技術は、SPF化や病原体排除手段として不可欠である。胚移植による個体化では、仮親マウスによる仔の食殺や育児放棄が起こることがあり、懸念材料となっている。個体化率には仮親の能力だけでなく、栄養面や外的環境が複合的に影響していると思われる。一般に出産前後のマウスは神経質だが、仮親には手術の負荷がかかる上、ビニールアイソレータ等の特殊飼育装置を使う場合は装置から常に騒音が発生しており、大きなストレスを与えていると考えられる。本研究ではこれらのストレスを軽減する要素として巣箱を取り入れ、仮親の妊娠、出産、哺育に与える効果を検証した。 【方法】C57BL/6Jマウスの2細胞胚を偽妊娠第1日目の仮親マウス(ICR)の卵管内に移植した。術後の仮親は巣箱を設置したケージに収容し、ビニールアイソレータ内で飼育した。巣箱の素材や形の違いから、A群 : 屋根型(紙製)、B群 : ドーム型(紙製)、C群 : ドーム型(ポリカーボネート製)、D群 : トンネル型(ポリカーボネート製)及びコントロール群(巣箱なし)の5郡に分け、仮親の妊娠、出産、食殺、哺育状況等を比較した。 【成果】通常の胚移植条件(左右卵管に各10個前後)にて比較した結果、巣箱なしの場合と比べ巣箱ありの4郡で妊娠率がやや向上したが、食殺率や哺育状況等に大きな差は生じなかった。但しケージの規格や作業手順との適合性はB群及びC群が高かったため、この2群に絞り更に胚移植を実施した。この時胚は片側卵管のみに移植し、食殺が起こりやすい状況にした。その結果、食殺率が両群で0%、コントロール群で40%となり、巣箱の食殺防止効果が示唆された。妊娠率や産仔数に有意な差は見られなかった。またA、B群ではすぐに巣箱を齧ってしまう仮親がいたが、残骸が巣材として好んで利用される傾向があった。本研究の成果を基に、今後はその他の環境エンリッチメントとの相乗効果も検証する。
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