Research Abstract |
《研究目的》歯周病は成人の8~9割で見られ、我が国で最も罹患率の高い慢性炎症の一つである。癌と慢性炎症はその関連性が知られているが、近年ピロリ菌感染と胃癌など慢性炎症に細菌・ウィルス感染が加わると発癌のリスクを生じる事が分かりつつある。しかしながら、歯周病と発癌の関連性については全くの不明である。一般的に癌では慢性炎症が高頻度で見られ、免疫細胞の浸潤や線維芽細胞の増殖、血管新生等が顕著に見られる。我々のグループは癌細胞からのシグナルによりこれらの微小環境が変化し、癌の悪性化を導く事を明らかにした(Kioi M et al, J Clin Invest, 2010)。そこで本研究では口腔癌患者における歯周病の罹患率を調査し、その関連性について解析を行う. 《方法》当科を受診する口腔癌患者、前癌病変である口腔扁平苔癬患者, 非担癌患者のうち, 同意を得られた患者の口腔内精査をThird National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES III)プロトコールを用いて歯周病検査を行い、その罹患率について調査を行う。次に生理食塩水の含嗽にて得られた含嗽液中の細菌の検査を行う。含嗽液に含まれる口腔内唾液などから細菌のゲノムDNAを抽出・精製し, PCRにて増幅させ齲蝕菌, 歯周病菌の感染率を統計学的に検討する。 《現在までの結果》 歯周病検査・口腔内細菌数に関して, それぞれの患者群で統計学的検討(Mann-Whitney U test)を行った. 現在歯数・%BOP (Bleeding On Probing)ではP<0.01, 平均PD (Pocket Depth)では0.01〈P<0.05であり有意差を認めた. 口腔内細菌数では有意差を認めなかった. 細菌種の違いに関しては非担癌患者と比較し, 口腔癌および口腔扁平苔癬患者ではPorphyromonas gingivalis (P. g)の検出率が高かった. (P<0.01, Fisher's exact test) 以上の結果から, 非担癌患者と比較し口腔扁平苔癬患者および口腔癌患者では口腔内の衛生状況が悪化しており, 歯周病菌の中でも毒性の強いP. gの関係が示唆された. 《今後の予定》感染によるタンパク発現量の変化やシグナル伝達への関与など分子メカニズムの解析を行っていく.
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