Research Abstract |
本研究は, 高齢化が進むハンセン病療養所において, ハンセン病の後遺症を踏まえながら, 今後の日本で急激に進む高齢化に向けて, 高齢者の栄養管理を歯科学的な面から探求することを目的とした。具体的には, 園内の歯科健診結果(口腔機能など)と血液検査等の全身的なデータを一元化したデータベースを作成し, 解析を行った。また, 歯科健診の結果, 口腔乾燥が顕著だった10名のうち, 口腔乾燥を重視した専門的口腔ケア介入直前の検査でも同じく口腔乾燥が顕著であった9名に対し, 約2か月間介入することで効果をみた。 データベースを解析した結果, 頬が膨らまない人は膨らむ人に比べ, 形態調整食を摂取している人の割合が多いことがわかった。また, 有意差はなかったものの, 頬が膨らまない人は膨らむ人に比べ, 補助栄養食品を使用している割合が高い傾向にあった。このことは, 頬の動きの可否が, 1. 形態調整食を用いるスクリーニング基準の一つとなること, 2. 補助栄養食品使用の判断へ影響を与えることが示唆された。一方で, 口腔乾燥状態と栄養状態について明らかな傾向を見出すことはできなかった。 専門的な口腔ケアの介入効果については, 介入前後の総蛋白, アルブミン, ヘモグロビン, BMI, 口腔乾燥状態及び日和見感染菌(10菌種)で見た。これらについて, 明らかな改善効果は見られなかったが, 食形態が悪化した者は1人もいなかった。 以上から, 口腔機能が栄養状態に何らかの影響を与えることを示唆した。一方で, 口腔ケア単独での栄養改善効果は限定的であると考えられた。すなわち, 口腔機能が低下しないように全身的な観点からも見ることが大切であり, その中で, 口腔機能を維持する一つの手段という位置づけで, 口腔ケアを行う必要があると考える。
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