Outline of Annual Research Achievements |
わが国では, 長年ろう学校において手話の使用が禁止されてきた. 現在, 手話を容認するろう学校も出てきたが, 手話のできない教師も存在するなど積極的な導入とは言い難い. そのような中, 2005年にろう児をもつ親たちが日本手話で授業を受ける選択権を訴えた「ろう児の人権救済申立」を日本弁護士連合会に起こした. 訴えを起こした親たちは, 日本手話こそがろう児にとって100%理解できる言語であると認識し, 日本手話を学び家庭でも手話での養育を行っている. このように近年, 日本手話での養育を行う「手話家庭」は出現し始めてきた. 手話家庭では「ろう児にとって日本手話が必要不可欠なものである」という信念の基, 家庭に日本手話を取り入れているわけだが, ろう児の兄弟姉妹にあたる聞こえる子どもに対してそれがどう影響していくのかには確信が持てていない. 聞こえる子どもへの影響に対する不安が, 家庭での手話での養育の導入, ろう児を手話で育てていくかどうかという重要な決定の判断材料の一部となっていることは紛れもない事実である. しかし, その不安に答えるような学術的な研究は筆者がこれまで行ってきたもの以外皆無である. そこで, 本研究ではろう児をもつ家庭が家庭内の言語使用を検討する際の一助となるべく手話家庭を訪問し参与観察・ビデオ収集を行った. そして, 3軒4名のバイリンガル児の言語使用を中心に計93日分の手話家庭の会話データを収集することができた. これらは今後, 手話と日本語のバイリンガル児の言語使用を分析するための貴重なデータとなるであろう.
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