Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
近年の精密重合技術の発展により、生体高分子 (タンパク質など) のように均一なモノマー配列や分子長さをもつ合成高分子が作製され、分子間結合のような優れた機能が発現されてきている。しかし実際の生体では膜タンパク質のように分子システムの中で機能を発現するものも存在する。合成高分子が流動性の膜に組み込まれた状態で分子間結合を示すために必要な構造が明らかになれば、膜の分子システムを模倣した人工分子システムの構築につながる。そこで本研究では標的分子との結合部位、疎水的な部位、および集積応答部位をもつ合成高分子を作製し、標的タンパク質との結合によって凝集誘起発光を示す高分子二重膜システムを開発する。
本研究では合成高分子による分子二重膜を基板上に形成し、生体分子との分子認識を介したシステム的な応答挙動の達成を目標とする。2022年度は、二重膜を形成するためにブロック構造をもつ合成高分子の作製を行い、QCM-Dのガラス基板上に膜の形成を確認した。以下、具体的な結果を示す。リビングラジカル重合の一種であるRAFT重合を用いて、疎水的なモノマーであるブチルアクリレートを重合した。このとき、重合の量体数を25、50、100と変えて重合した。続いて、これらのポリマーに対して親水的なジメチルアクリルアミドをブロック共重合した。それぞれの疎水ブロック:親水ブロックの長さの比が1:1または2:1となるように重合した。このように各ブロックの長さの比を変えることで異なる親疎水性のバランスをもつ高分子群を作製し、基板上に膜を形成するために最適な高分子の構造を明らかにすることとした。QCM-Dによる測定は共同研究先である東京大学 高井研究室に訪問し実施した。最初はPBS溶液を通液させ、その後両親媒性高分子のエタノール溶液に置換することで基板上に膜の形成を確認した。結果として、疎水性:親水性ブロックを50量体ずつ含む高分子が最も高い表面被覆率をもつ膜を形成した。ラジカル重合によって作製された合成高分子で基板上に膜を形成した例はこれが初めてである。今後、疎水性ブロックの側鎖をブチルではなくオクチル基に変換した際の膜生成能の差を確認する。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
ブロック高分子による基板上への膜形成の現象が確認できるかどうかが最も重要であったが、その現象が確認でき今後の研究計画の遂行が可能であるため。
今後は分子認識部位である糖鎖を末端に修飾した高分子膜をQCM基板に形成し、膜の分子認識能を評価する。しかし基板上に対する膜形成はQCM-Dにて行う必要があり、高分子を蛍光標識してFRAPによる膜の流動性評価を行う、という当初の計画遂行は困難な可能性があるため、膜の分子認識評価を中心としたものに変更することも考慮する。