仮想空間における高解像度実時間観察を通した動的エキシトン現象の理解と制御
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic Exciton: Emerging Science and Innovation |
Project/Area Number |
23H03976
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Research Category |
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
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Allocation Type | Single-year Grants |
Review Section |
Transformative Research Areas, Section (II)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浦谷 浩輝 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (50897296)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥7,800,000 (Direct Cost: ¥6,000,000、Indirect Cost: ¥1,800,000)
Fiscal Year 2024: ¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
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Keywords | エキシトン / ダイナミクス / シミュレーション |
Outline of Research at the Start |
有機太陽電池等の動作機構の基礎には、分子集合体における光励起状態ダイナミクス(エキシトン動力学)がある。こうした系におけるエキシトン動力学は、構成分子の化学構造やパッキングといったミクロな構造に強く影響を受けるものであるから、逆に構造でエキシトン動力学を制御できる可能性があるともいえる。一方、どのような構造からどのようなエキシトン動力学が生じるかを予測することは必ずしも容易ではない。本研究では、分子構造を顕に扱えるエキシトン動力学シミュレーション手法を用いることにより、計算機上でエキシトン動力学を「観察」し、これを通じて系のミクロな構造とエキシトン動力学との関係を理解することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
申請者の開発してきたエキシトン動力学シミュレーション手法であるpatchwork-approximation (PA)-based Ehrenfest法を用いて、有機太陽電池におけるエキシトン解離過程の解析を行った。 これまでの研究において、古典的な系であるP3HT/PCBMを対象に、PA-based Ehrenfest法に基づくエキシトン解離過程解析の概念実証が完了している。本年度は、P3HT/PCBMにおいて確立したアプローチを応用する形で、近年盛んに研究が行われている小分子ドナー/非フラーレン型アクセプターを用いた有機太陽電池におけるエキシトン解離過程を調べた。小分子ドナーの種類および凝集構造(H-aggregateおよびJ-aggregate)を変化させた場合について比較検討を行った。 また、これまでのエキシトン動力学シミュレーションで培った励起状態ダイナミクスに関する知見を他分野にも展開するべく、有機発光ダイオード(OLED)分野で注目される熱活性化型遅延蛍光(TADF)過程の速度論に対する構造乱れの影響に関する検討を行った。TADFについては、現象全体を記述する速度式(速度論モデル)を仮定し、これに含まれる各素過程(逆系間交差、系間交差等)の速度定数を実験的または理論的方法で見積もることがよく行われる。しかし多くの場合、OLEDは通常アモルファス有機分子凝集体で構成されるため、TADF分子の構造(配座)は乱雑なものとなっている。したがって速度定数も分子ごとにばらつきを持つと考えられるが、これが系のマクロな振る舞いに及ぼす影響は明らかでない。本研究では、分子動力学計算により再現したアモルファス有機分子凝集体構造から複数のTADF分子構造を抽出し、TADFに係る各種過程の速度定数をフェルミ黄金律により見積もることで、速度定数のばらつきを評価できるかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画通り、これまでにP3HT/PCBM系において確立してきたシミュレーションプロトコルを、非フラーレン型アクセプターを用いた有機太陽電池系に適用した。また、従来のフラーレン型アクセプターに基づく有機太陽電池(P3HT/PCBM)とのエキシトン解離動力学の違いを議論した。検討できた系の数は数種類であるため、多様な系の網羅的検討や非フラーレン系に共通する一般的法則の抽出にまでは至っていないものの、少なくとも当初の計画については達せられたといえる。 また、TADFの速度論に関する検討については当初の計画になかったものであるが、エキシトンダイナミクスシミュレーションに関する上記の取り組みから着想を得て、新たな方向へと展開したものである。現在までに得られた結果は予備的なものであり、手法面で解決すべき課題が存在することが明らかとなったものの、今後の展開が期待できる。 以上より、当初の計画を達成したことに加え、新たな展開にも着手できたことから、おおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、patchwork-approximation-based Ehrenfest法を様々な有機太陽電池ドナー・アクセプター界面系に適用し、系ごとにエキシトン解離ダイナミクスの様子を比較する。 近年の有機太陽電池研究においては、開放端電圧(Voc)の向上を狙った材料設計が盛んとなりつつある。Vocを向上させるには、ドナーとアクセプターのHOMO同士およびLUMO同士のエネルギー準位差(energy offset)を小さくすることが重要である。一方、energy offsetにはエキシトン解離の推進力という面もあるため、energy offsetの低減と効率的なエキシトン解離とをいかに両立するかが課題となる。 本年度は、様々なenergy offsetの大きさを持つドナー・アクセプターの組み合わせについてシミュレーションを行い、エキシトン解離ダイナミクスとenergy offsetの関係を体系的に明らかにすることを目指す。また、実際に小さいenergy offsetを持ちながら効率的なエキシトン解離を実現するドナー・アクセプター系も知られているので、これらにおけるエキシトン解離メカニズムやその推進力を詳細に明らかにすることで、ボトムアップ的材料設計の指針構築を狙う。 なお、これまでの研究遂行過程において、多種多様な系においてシミュレーションを実施するためには、その前段階である、界面構造のモデリングの効率化が不可欠であることが明らかとなってきた。これまで自作のツール群を活用してモデリングを行ってきたが、これらの機能を一層拡充することで自動化部分を増やし、多数の系におけるシミュレーション実施を可能にする計画である。
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Report
(1 results)
Research Products
(6 results)