Publicly Offered Research
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
本研究は、中国に代理出産に現れている尊厳や人権など複雑な問題を、言説や法制度のみならず、哲学的思想的背景と歴史的変容を踏まえ、当事者の考えや行為に目を配りつつ、より精緻な分析と構造的な理解をめざすものである。思想概念・言説実践・当事者視線という三つの次元からの考察を通して、中国の代理出産に見る人権の思想と現状を解明し、尊厳学の概念史的構築及びその具体化を検討するための、非欧米圏の典型としての中国の視点を提供する。
本研究は、中国における代理出産の問題に焦点を当て、尊厳・人権及び生殖権・身体権などについて、中国では如何に議論されているか、その思想的根源はなにか、当事者が如何に考え行動しているかを、ジェンダー視点と比較視点を入れつつ、総合的立体的に検討することを目的とする。具体的には以下の三つの次元から考察する。①尊厳・人権、リプロダクティブ・ライツなど概念は、如何に理解され引き合いに出されているか、諸外国に比べて如何なる特徴をもつものかを析出する。② ①で析出された中国的特徴を理解・分析するために、上記の「尊厳」「人権」などの概念の中国の受容/拒否の歴史を考察する。③ 現場にいる生命科学技術者や代理出産の依頼者と代理母が如何に考え行動しているかを把握し、① ②の思想・言説にフィードバックしながら再帰的に検証する。2024年度は、①インタビュー、②学会報告した。①に関しては、卵子凍結に関する中国初の訴訟に関わった人権運動家・弁護士、またNGO「未来家」の責任者にインタビューした。「尊厳」「人権」「生殖権」などの概念が実際の案例の中で如何に使われていたか、「正常」な異性愛家族と異なる家族形態を形成した人々の状況などについて話してもらった。さらに台湾で生殖補助医療を用いて出産したカップル、生殖補助医療に携わる医師・技術者にインタビューした。②に関しては、以下の三つの報告を行った。a「中国における独身女性の生殖補助医療利用権に関する議論」(東京大学駒場キャンパス、2024年1月28日);b「東アジアの生殖補助医療の今――中国」シンポジウム「東アジアの生殖補助医療の今」(慶応義塾大学、2024年12月27日); c「凍卵は中国でなぜこんなに難しいか――法規則と現状」東亜性別與生殖研討会「東亜的人工生殖、多元性/別與生殖正義」(台湾大学社会学系・台湾大学靭性社会研究中心、2025年3月1日)
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
2024年度に予定していた資料取集、フィールド調査、資料に基づく初歩的分析の三つの目標は、概ね順調に進んだ。資料取集に関しては、北京・湖南・台湾などに行き、フィールド調査と同時に資料収集も行った。インタビュー及び資料に基づく初歩的分析に関しては、上記「研究実績の概要」ですでに述べた。だた、幾つかの新たな課題も出ている。中国では代理出産は非合法であるため、闇の代理出産が横行し、中国政府による取締りが厳格化している。そのため「代理出産」の当事者(委託者と受託者)へのインタビューはますます困難になっている。また代理出産に関する議論の中での「尊厳」概念の両義性・両面性が見られ、概念に一定の合意がなく、代理出産の研究に対する倫理的見解に混乱をもたらすだけでなく、尊厳概念の形骸化も見受けられる。
2025年度は、①今までの先行研究及び問題点を整理し、分析枠組みを練り上げる。②日本及び中国で必要な文献・資料を引き続き収集する。代理出産をめぐる欧米や日本と異なる思想的根源を明らかにするために、特に儒教思想を基礎とする中国の伝統医学における身体観・生命観、中国の伝統的家族観に関する記述を中心に資料収集を行う。③フィールド調査を行う。2024年度の研究の中で気づいていた問題点と課題、つまり第一に「代理出産」の当事者へのインタビューの困難、第二に「尊厳」概念の両義性・両面性・形骸化という問題、それを解決するために、中国の研究者と連携をとり、引き続き現地調査を実施し、より細かな調査を行う予定。④資料を整理し、初歩的分析を行う。そこで得た知見をシンポジウムの開催、論文の発表などを通じて、国内外に発信する。特に代理出産(言説と実践)に見られる中国の尊厳概念の特徴を析出する。
All 2025 2024
All Presentation (2 results)